労働基準監督署の立入調査のチェックポイントを教えてください
労働基準監督署の立入調査について、大熊社労士からレクチャーを受けている服部社長と宮田部長。立入調査では、どのようなことが調べられるのか不安に思い、真剣に質問している。
服部社長:
そもそも、どのような会社が立入調査されるのでしょうか?
大熊社労士:
はい、定期監督では、頻繁に労働災害が起こる業種、サービス残業などの法違反がありそうだと思われる業種、就業規則や36協定をはじめとする各種協定の届出がない事業所、過去に違反があった事業所などが重点的に調査されるといわれています。しかし、これら以外の業種や事業所なども調査の対象となることは当然あります。実際の定期監督等の実施件数でみると、製造業がもっとも多く、次いで建設業、商業、運輸交通業、接客娯楽業の順となっています。
宮田部長:
やはり製造業が一番多いのですね。当社も気を付けないといけませんね。それで実際に立ち入り調査があった場合、指摘される違反の程度はどのようなものなのでしょうか?
大熊社労士:
調査によってなんらかの法違反があると認められた違反率ですが、愛知県の場合、平成19年度では67.4%(前年比0.5ポイント増)となっています。全国的にみても65%~75%といった水準になっているようですね。
宮田部長:
7割前後とは結構な割合で法違反を指摘されるのですね。もっと違反率は低いと思っていました。
大熊社労士:
えぇ、違反率の高い業種は、愛知県では接客娯楽業、保健衛生業、商業、運輸交通業、製造業となっており、70%~80%の割合で法違反が指摘されています。
服部社長:
実際に指摘される内容としては、どのようなものが多いのでしょうか?
大熊社労士:
はい、違反の内容は、大きく分けると「労働条件に関するもの」と「安全衛生に関するもの」があります。まず「労働条件の関係」でいえば、労働時間に関するものがもっとも多く、次いで就業規則に関するもの、割増賃金に関するもの、労働条件の明示に関するものとなっています。「安全衛生関係」では、安全基準に関するもの、安全衛生管理体制に関するもの、健康診断に関するもの、機械等の定期自主検査に関するものとなっています。
服部社長:
それで調査では具体的にどのような内容がチェックされるのでしょうか?
大熊社労士:
労働時間のチェックのポイントとしては36(時間外・休日労働)協定を結んで届けているか、36協定の時間を超えて労働させていないか、また過重労働につながる長時間労働が行われていないかといったことが挙げられます。一方、就業規則のチェックポイントとしては就業規則が作成されているか、給与や退職金等を別規程で定めることになっている場合にそれらが作成されているか、過半数労働の代表者から意見聴取されているか、労働基準監督署に届出がされているか、その内容が労働者に周知されているか、法令違反はないかなどが重点的に見られますね。
服部社長:
就業規則に関しては、当社も少し危ないところがありますね。十分に周知できていない場合も現実にはありますので。ちなみに新聞でよく目にするサービス残業に関する事項はどうですか?
大熊社労士:
はい、割増賃金に関しては時間外労働や休日労働に対して法定どおり支払われているか、管理職の深夜割増が支給されているか、その計算方法は正しいかなどがチェックされます。またこうした事項以外にも、法定の労働条件が書面で明示され交付されているか、労働者名簿や賃金台帳が正しく作成され保管されているか、最低賃金が確保されているか、法定健康診断が実施されているか、衛生委員会が適正に実施されているかなどが主にチェックされます。
宮田部長:
たくさんチェックされるのですね。調査のとき、きちんと対応できるか、不安になります。
大熊社労士:
大丈夫ですよ、落ち着いて一つひとつ丁寧に誠意をもって対応してください。どうしてもわからないときは、調査に来た監督官に相談してみるとよいでしょう。また、もし是正勧告や指導票が交付されたときは、私も一緒になって対応しますから、安心してください。
服部社長:
大熊さん、そのときはよろしくお願いいたします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は、立入調査(臨検監督)時の主なチェックポイントを取り上げてみました。安全衛生のチェックポイントは、機械の原動機や回転軸、歯車等の労働者に危険を及ぼす部分に覆いや囲いをしていないなど労働災害につながるものがチェックされます。安全衛生管理体制では、事業所の規模に応じた安全・衛生管理者の選任その他の管理体制が採られ、機能しているか。健康診断では雇入時や定期健康診断など労働安全衛生法に定める健康診断を行っているか、定期健康診断等の報告書を労働基準監督署に提出しているかなどが確認されます。定期監督等では、毎年同じような実施結果が出ていますので、基本的な項目については上記のチェックポイントを中心に、みなさんの会社でも自主点検をしてみてください。チェック内容がよくわからないときは、社会保険労務士に相談してみるとよいでしょう。
[関連法規]
労働基準法 第101条(労働基準監督官の権限)
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
2 前項の場合において、労働基準監督官は、その身分を証明する証票を携帯しなければならない。
労働基準法 第104条の2(報告等)
行政官庁は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる
関連blog記事
2008年7月14日「労働基準監督署の立入調査では、どのようなことをするのですか?」
https://roumu.com/archives/64928983.html
2008年7月7日「労働基準監督署の立入調査とは何ですか?」
https://roumu.com/archives/64927921.html
2007年10月7日「平成18年度のサービス残業是正支払額は1,679社で227億円」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51113831.html
2005年6月20日「是正勧告とはなにか?」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/25495617.html
参考リンク
東京労働局「平成19年に実施した定期監督等の実施結果」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2008/20080512-kantoku/20080513-kantoku.html
愛知労働局「平成19年に実施した定期監督等の実施結果」
http://www2.aichi-rodo.go.jp/jyoho/kantoku/h19teikimatome.pdf
厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果~平成18年度は約227億円」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1.html
東京労働局「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成18年度)」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2007/20071005-kantokushidou/20071005-kantokushidou.html
厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1b.html
厚生労働省「賃金不払残業総合対策要綱」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/h1005-1a.html
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/10/dl/h1005-1a.pdf
(鷹取敏昭)
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