協会けんぽはなぜ被保険者の資格取得・喪失の手続きなどを取り扱わないのですか?

 今年の10月から政管健保に代わり健康保険事業を行うことになった協会けんぽについて、まだ十分情報整理ができないようで服部社長と宮田部長は、引き続き大熊社労士に相談している。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、協会けんぽのことで一つ教えて下さい。保険証の発行や保険給付などを協会けんぽで行うのであれば、被保険者の資格取得・喪失の手続きや保険料の徴収などの取り扱いも行えばよいと思うのですが、なぜそうしないのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。協会けんぽで被保険者の資格取得・喪失の手続きの取り扱いを行うとなると、同じ手続きを厚生年金保険でも行わなければなりませんから、事業主としては煩雑になってしまいます。また、厚生年金保険や介護保険の保険料の徴収を別々にしてしまうと、納める事業主の方は手間がかかるばかりでメリットがなく、結果的に収納率が悪くなる可能性があるからではないかと思いますよ。
宮田部長:
 そうか、そもそも協会けんぽは健康保険事業だけを取り扱うのですね。
服部社長服部社長:
 なるほど、そういうことか。私も社会保険庁の事業すべてを移して、協会けんぽで年金も取り扱うと勘違いしていました。それでは年金はどうなりますか。引き続き社会保険庁が取り扱うのでしょうか?
大熊社労士:
 社会保険庁はご存知のとおり、年金記録問題をはじめ数多くの批判や指摘を受けており、社会保険庁そのものの組織改革が進められています。厚生年金保険や国民年金の公的年金については「日本年金機構」という民間組織が、厚生労働省から委任を受けて平成22年1月より運営を行う予定になっています。それまでの間、社会保険庁の出先機関である社会保険事務所で取り扱いますが、「日本年金機構」の運営開始をもって社会保険庁は廃止されることになる予定です。
服部社長:
 なるほど、やっと話が繋がりましたよ。年金問題はたいへんな事態になっていますから、信頼を取り戻すためには大改革が必要でしょう。ところで、もう一つの介護保険はどうなるのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、介護保険制度の変更は予定されていません。現在でも介護保険は原則として市町村が保険者となって運営しています。なお、便宜上、会社に勤めている被用者が負担する介護保険料は、健康保険料に上乗せする形で徴収される形になっています。
宮田部長:
 なんとか、頭の整理ができました。しかし、保険制度であったり、労働者に関する法律が次から次へと変るため混乱してしまっています。
大熊社労士:
 そうですね、やはりこれだけ変化が激しいと私たちでも情報を的確につかんで対応するのは難しくなってきていますから、宮田部長のような一般企業の担当者の方であればなおさらでしょう。
宮田部長:
 そういっていただければ、安心します。また、わからないことがでてきたら相談させてくださいね。よろしくお願いします。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き、平成20年10月1日からスタートした協会けんぽについて取り上げてみました。保険を取り扱う組織の変更で、企業の社会保険担当者でさえも、非常に分かりにくくなってきていると思われます。本文にある宮田部長のように間違うのも無理はありません。改めて、整理をしてみると次のようになりますので、ご確認ください。
□健康保険
 社会保険庁で扱ってきた政府管掌健康保険 → 協会けんぽに変更(平成20年10月1日)
□公的年金
 社会保険庁で扱ってきた公的年金 → 財政責任・管理運営責任は厚生労働省、運営業務は日本年金機構に変更予定(平成22年1月)
□介護保険
 保険者は原則として市町村で変更なし


 なお、社会保険庁は平成17年9月に策定した業務改革プログラムに基づいて改革が進められていますが、年金記録などで大きな問題が山積しており、政治情勢によっては新たな変化も予想されますので引き続き最新の情報を入手するようにしてください。



関連blog記事
2008年10月24日「協会けんぽ発足に伴う社会保険関係書類提出先一覧表 ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51435398.html
2008年10月20日「協会けんぽになると保険料が変るのですか?」
https://roumu.com/archives/64998747.html
2008年10月13日「「協会けんぽ」って何ですか?」
https://roumu.com/archives/64990242.html
2008年10月9日「保険証発行申請後の緊急医療機関受診は証明書発行で対応!」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51426246.html
2008年10月7日「協会けんぽの設立によって変更となる保険証の発行」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51424355.html
2008年10月6日「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/55152364.html
2008年10月1日「本日、協会けんぽが設立!ホームページもオープン」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51422235.html
2008年9月25日「協会けんぽの設立とともに新しくなる被保険者証」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51418150.html
2008年8月22日「10月の協会けんぽ設立で保険料率はすぐに変わるのか?」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51395907.html
2008年5月30日「10月の協会けんぽ設立で新保険証へ切替えに」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51335017.html
2007年10月10日「社会保険庁廃止に伴う都道府県別健康保険料率設定の影響」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51109890.html


参考リンク
社会保険庁「健康保険被保険者資格証明書について」
http://www.sia.go.jp/~tokyo/shikakusyoumeisyo-hyoushi.htm


(鷹取敏昭)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。