年末調整で雇用保険の育児休業給付はどのように取り扱えばよいですか?

 今回は、部下の面談の仕方の続きを確認する予定であったが、年末調整関連の質問が福島さんからあると聞いた宮田部長は予定を変更し、大熊社労士に確認することにした。



福島照美福島さん:
 大熊先生、お忙しいところ申し訳ありません。今、年末調整の書類チェックをしている中で分からないことが出てきたのです。相談に乗っていただけませんか?
大熊社労士:
 はい、もちろんいいですよ。どのようなことでしたか?
福島さん:
 ありがとうございます。被扶養者の所得に関することなのですが。
宮田部長:
 あぁ、あの103万円とかいうやつだね。
福島さん:
 そうです、それです。基本的な点は理解しているつもりなのですが、今回、少し複雑な社員がおりまして…。具体的にお話すると、その社員の奥様は現在育児休業を取っているそうなんです。
大熊社労士:
 なるほど。
福島さん:
 社員からは、「妻が4月から産前産後休暇を取る、その後は育児休業を取る予定だ」と聞いていたものですから、4月の給与計算のときから控除対象配偶者として処理してきました。
大熊社労士大熊社労士:
 そのときに「給与所得者の扶養控除等の(異動)申告書」に奥様の名前を記入し提出してもらったということですね。
福島さん:
 はい、今年は1月~3月の給与のみが収入で、75万円程度になるとのことでしたので、所得税の控除対象としたのです。これが103万円を超えると控除対象外となるんですよね?
大熊社労士:
 はい、そのとおりですよ。
宮田部長:
 いまも育児休業でお休みしているんだよね?何が問題なのかな?
福島さん:
 ご本人に確認したところ、やはり給与は75万円程度だそうです。しかし、この確認をしたときに、ご本人に「妻が雇用保険から手当をもらっているけど、これを含めるとかなりの年収になってしまうのだけど、奥さん扶養に入れてもよかったのかな?」と聞かれてしまい、びっくりして。
大熊社労士:
 雇用保険…。多分、育児休業給付ですね。
福島さん:
 はい、そうです。
大熊社労士:
 確かに平成22年4月1日以降に育児休業を開始した人はそれまで育児休業中に30%、職場復帰して6か月経過後に20%が支給されていたものが、育児休業中に50%と変更されたのでかなり大きな額になりますよね。
宮田部長:
 それ、ずっと前に聞きましたね(笑)。
大熊社労士:
 そうですね、今年、お話した覚えがありますね。ただ、この育児休業給付は雇用保険法で課税されないと規定されています。したがって、いくら額が多くても控除対象配偶者の判断には影響を及ぼしませんよ。
福島さん:
 そうなんですね。それであれば、これまでの処理でも問題なかったということですね!たくさんの追徴があったらどうしようかと思っていたので安心しました。
宮田部長宮田部長:
 よかったね~。ところで大熊先生、福島さんの話を聞いていてふと思ったのですが、あの子どもが生まれたときにもらえる40万円くらいの手当はどうなるんですか?
大熊社労士:
 健康保険から支給される出産育児一時金ですね。こちらは健康保険法で課税されないと規定されているので、雇用保険同様、問題ありません。その他、社員の奥様に支給されている出産手当金も課税されません。
宮田部長:
 なるほど、この社員の今年の所得税はかなり少なくなりそうですね。
大熊社労士:
 その可能性が高いですね。ただ、出産・育児は何かとお金がかかりますし、奥様が働いていたと仮定した世帯収入を考えると、今年は多分少なくなっているんじゃないですかね?
宮田部長:
 確かにそうですね。それにしてもややこしい。福島さん、よろしく頼みますね。
福島さん:
 はい、これで準備万端です。大熊先生ありがとうございました!


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。健康保険から受けられる出産手当金や出産育児一時金は課税されません。また、雇用保険から受けられる基本手当や育児休業給付も同様です。これらの手当が支給されるから所得税の控除対象配偶者になれないという誤解が生まれやすいものです。特に社会保険加入者は育児休業中についても被保険者であり、健康保険の扶養異動の手続きや国民年金第3号被保険者の手続きが発生しないため、漏れが発生する原因にもなります。総務担当者は分かる範囲内で社員にヒアリングをするなどの配慮をしたいものです。


[関連法規]
雇用保険法 第12条(公課の禁止)
 租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として課することができない。


健康保険法 第62条(租税その他の公課の禁止)
 租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として、課することができない。



関連blog記事
2010年4月12日「4月1日より改正された育児休業給付制度について教えてください」
https://roumu.com/archives/65246063.html
2007年6月4日「パートタイマーが扶養家族にこだわる理由」
https://roumu.com/archives/54401877.html


参考リンク
国税庁(タックスアンサー)「雇用保険法上の求職者給付を受給している場合の控除対象配偶者の所得金額の判定」
http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1191_qa.htm#q4


(宮武貴美)


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