早朝の自主出勤や朝礼など労働時間の範囲についてどう考えればよいですか?

 服部印刷には毎朝、非常に早い時間に出勤する者がおり、宮田部長はその労働時間の扱いについて頭を悩ましていた。


宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。今日の一つ相談に乗って頂きたいことがあるのですが。
大熊社労士:
 はい、どのようなことでしたでしょうか?
宮田部長宮田部長:
 実は製造部の社員のことなのですが、満員電車が嫌いということで毎朝、始業時間よりも1時間以上も早く出社しているのです。本人は特に悪気もなく、単純に空いた電車で出社し、ゆっくり仕事の準備をしたいということのようなのですが、会社としてはこれが法的に労働時間として認識されたら大変なことになると心配しているのです。大熊先生、これは労働時間に該当することもあるのでしょうか?
大熊社労士:
 なるほど、どこの職場にもそのような方はいたりしますね。基本的には本人都合で出勤していますし、特に仕事をしている訳ではないようですから、基本的には労働時間ではないということでよろしいかと思います。それではここで労働時間の定義についてお話ししておきましょう。そもそも労働基準法においては労働時準法の定義は明確にされていません。
宮田部長:
 そうなんですか?それは意外です。
大熊社労士:
 はい、労働基準法では、その第32条で「使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない」と規定されているのですが、労働時間の定義づけはしていないのです。それでは実際の労働時間の定義はどこでされているのかと言えば、実務上は2000年3月9日の三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決によっているのです。そこでは、そもそも労働時間というのは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるもの」とされています。
宮田部長:
 なるほど、使用者の指揮命令下に置かれている時間ということですね。
大熊社労士:
 はい、この定義に基づき、今回の事例を考えると、本人は会社の指示を受けて早朝出勤している訳ではなく、あくまでも個人の都合により出勤しています。よって基本的には労働時間には該当しません。
宮田部長:
 なるほど。ただ、先ほどから「基本的には」という言葉が気になるのですか…。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですよね。基本的にはとお話ししているのは、労働時間として認定されてしまう場合もあり得るからなのです。例えば、その時間に本人が実質的に仕事をしており、会社もその状況を黙認しているような場合には、実質的に指揮命令下にあるとして、労働時間認定される恐れは残ります。よって、リスク管理の観点からは、今回のように個人の都合で早朝に出勤したり、業務終了後に無暗に職場に残っているような状況は避けた方が良いのは間違いないでしょう。つまり早朝出勤や業務外での居残りは禁止するということですね。
宮田部長:
 なるほど、もっとも今回のケースは特に揉めるような状況ではないと思いますので、社長と対応を検討してみます。
大熊社労士:
 そうですね。御社であれば、実質的にはそのような対応でよろしいかと思います。ちなみに労働時間の範囲については、研修や朝礼の時間なども問題になることが多いのですが、この判断も先ほどの使用者の指揮命令下に置かれているか否かを押さえておくと、困りませんね。
宮田部長:
 つまり、使用者の指揮命令下だから業務命令で参加させる研修や朝礼は労働時間であって、自由参加であれば労働時間ではないということですね。
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。しかし、形式的には自由参加であっても実質的にはそうではないというものはやはり労働時間となってしまう可能性が高いでしょう。例えば、その参加率が人事評価の対象になっているであるとか、参加しなかった場合には叱責を受けるといった場合がその典型です。
宮田部長:
 なるほど、よく分かりました。ありがとうございました。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は労働時間の範囲についての考え方について取り上げてみました。労働基準法に労働時間の定義がないことは意外に感じられたのではないかと思います。実務上は本文中でも引用した三菱重工業長崎造船所事件最高裁判決で示された「使用者の指揮命令下に置かれている時間」という基準が労働時間の基本定義とされています。労働時間に該当するか否かは様々な場合がありますが、この定義を押さえておけば、基本的にはその判断ができるのではないかと思います


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(大津章敬)

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