社会保険の月額変更(随時改定)はどのようなときに行うのですか?

 福島さんが長期でお休みしている中、労働保険の年度更新、社会保険の算定基礎と無事に乗り越えることのできた宮田部長。今回はどうやら社会保険の随時改定(月額変更)のことが引っかかったようであり、大熊の訪問を待ちわびていた。


宮田部長:
 いや~、暑い日が続きますね、大熊先生。こうも暑いとこれまで覚えたことが全部溶け出してしまうのではないかと心配になりますよ。
大熊社労士:
 確かにそうですね。でもせっかく得た知識ですから、しっかり記憶していてくださいよ!来年は改正点のお話しかしませんからね!
宮田部長宮田部長:
 先生、それはないですよぉ。一応、落ち着いたので、自分なりの記録を残しておこうとは思っています。今回、これまで福島さんが適切な処理をしてくれていたのがよくわかった一方、任せっきりにしていたので、マニュアルづくりの大切さを痛感しました。これはきちんと指示をしていなければならなかったことなのでしょうね。
大熊社労士:
 それはとてもよい気づきですよね。ガイドラインを作成すれば福島さんがより良いものに変えてくれると思うので、育児休業から復帰したときに取り掛かれるようにしておきたいですよね。
宮田部長:
 確かにそうですね。でもでも、来年は来年でおそらく「去年聞いた」なんてことをもう1回お聞きすると思うので教えてくださいね。それで、今日はゲツガクヘンコでしたっけ…?あれについて教えていただきたいと思っています。
大熊社労士:
 社会保険の随時改定・月額変更のことですね。私もそろそろお話をしなくてはと思っていたところです。確か、御社では今年は5月に昇給を実施されましたよね?
宮田部長:
 はい、ほぼ全員の昇給を行いました。それに4月に引越しをした社員がいて、通勤手当も変えました。通勤時間はさほど変わらないのですが、バスを利用するようになるとのことで、通勤手当が随分高くなったんですよねぇ。
大熊社労士:
 なるほど。了解しました。それではまず、月額変更とは何かということから説明しておきましょう。
宮田部長:
 はい、よろしくお願いします!
大熊社労士:
 それでは始めますね。まず、社会保険の保険料は標準報酬月額を用いて決めていますよね。この標準報酬月額は、一度決定すると原則としてその標準報酬月額を1年間利用することとなります。
宮田部長:
 算定基礎で決まった標準報酬月額は翌年の8月まで利用するというやつですね!
大熊社労士:
 そうですね。ただし、1年間、ずっと同じ給与が支払われるとは限りません。昇給もすれば、家族が就職し、家族手当が減るなんてこともあるでしょう。このように給与が変更になったときに月額変更を行うことになります。
宮田部長:
 えぇ~!じゃぁ、毎月変えなくちゃいけないじゃないですか!だって、社員の多くが残業しているんですよ!
大熊社労士:
 あはは。それじゃ算定基礎の意味がないじゃないですか。この月額変更の意味というのは、算定基礎等で一度決定したものと大きく給与が変わったにも関わらず、標準報酬月額が変わらないというのはおかしいので、より適切なものに見直しましょう、というものです。
宮田部長:
 なるほど。でも当社は残業に結構波があるので、支給額も相当変動がありますよ。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですよね。ただ、月額変更というのは残業のように変動給が変更になっただけでは行わないことになっています。先ほどちらっとお話した基本給等に昇給があった場合や家族手当が減った場合など、固定的に支払われる給与に変動があった場合に行われることになっています。
宮田部長:
 ほほ~。となると、5月昇給ではほぼ全員の確認をしなければならないですが、他の月は限られた人だけになりそうですね。
大熊社労士:
 はい、おっしゃる通りです。そのように絞り込んだ人に対し、大きく給与が変わったか否かを確認します。具体的にいうと、固定給が変動した月から3ヶ月間に支払われた給与の平均額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差があるかどうかを確認します。
宮田部長:
 大きな変更とは2等級なんですね!となると20万円台の給与であれば、4万円の昇給ですよね?さすがにそんな昇給はしてませんよ~。だから、該当者ゼロ!
大熊社労士:
 あはは、見本通りの間違いをありがとうございます。いま宮田部長は基本給の昇給のみで考えましたよね?でも、算定基礎を思い出してください、総支給額で考えませんでしたか?
宮田部長:
 …あ!そうでした…。ということは、残業代も含めて考えるということなんですか?
大熊社労士:
 はい、その通りです。残業代のような非固定的給与も含んで2等級以上の差があるかを確認しますよ。ここは算定基礎と同じ考え方ですが、1点違うのは支払基礎日数の部分です。算定基礎は支払基礎日数が17日以上の月で平均を出しましたよね。
宮田部長:
 はい、それで計算しました。
大熊社労士:
 ただ、月額変更は3ヶ月とも支払基礎日数が17日以上である場合のみ行うことになります。逆に言うと、固定給が変動した月から3ヶ月で、1ヶ月でも17日未満の月があると、月額変更には該当ません。
宮田部長:
 なるほど、算定基礎とはちょっとした違いがあるんですね。ん?いまふと気づいたのですが、先生のお話を聞いていると、固定給の変動があった月以降に残業が増えると、結果として月額変更になってしまったり、または月額変更でかなり高い標準報酬月額になってしまったりするのですか?
大熊社労士:
 とてもよい質問ですね!おっしゃる通りです。いま挙げたすべての条件に該当したとき、固定給が変動した月から3ヶ月間に支払われた給与の平均額で標準報酬月額を決定することとなります。したがって、この3ヶ月に残業が多いと、確かに標準報酬月額は上がってしまうということになります。
宮田部長:
 なるほど。何だか同じ時期に同じだけの残業をしても標準報酬月額が変更になる人と変更にならない人がいるというのは不思議な感じがしますけれども仕方ないんですよね。
大熊社労士:
 そうですね、現状のルールではおっしゃるような現象が出ますが、仕方ないことと割り切ってもらうしかないのでしょうね。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]

大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今日は社会保険の月額変更を取り上げました。算定基礎は4月から6月という決まった時期(定時)に標準報酬月額を決定するため、「定時決定」と言われますが、月額変更は該当したとき(随時)に標準報酬月額を見直し改定するため、「随時改定」と名付けられています。この月額変更で固定的に支払われる給与と言われるものですが、月額で定められたもののみではなく、例えばパートタイマーの時給を上げたときにも該当します。また、日々支払われる食事手当の単価を変更したようなことも含まれますので、ご注意ください。


関連blog記事
2012年7月2日「社会保険算定基礎の年間平均とはどのようなものですか?」
https://roumu.com/archives/65565517.html
2012年6月25日「社会保険の算定基礎でパートタイマーはどのように扱われますか?」
https://roumu.com/archives/65565513.html
2012年6月18日「社会保険の定時決定(算定基礎)とはどのようなものですか?」
https://roumu.com/archives/65564446.html
2012年6月11日「支払対象期間の途中で資格取得した場合の社会保険算定基礎取り扱い」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51935263.html

参考リンク
日本年金機構「随時改定」
http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=2054
日本年金機構「月額変更届の提出」
http://www.nenkin.go.jp/n/www/service/detail.jsp?id=1975

(宮武貴美)

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