労働政策審議会中間報告に見る時間外労働に関する法改正の検討ポイント

 以前、当blogでご紹介した労働政策審議会の「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」は、今後の労働法制に非常に大きな影響を与える内容を多く含んでいます。その中から本日は時間外労働に関する部分について、そのポイントをご紹介します。
(基本的な考え方)
 次世代を育成する世代(30歳代)の男性を中心に、長時間労働者の割合が高止まりしており、過労死の防止や少子化対策の観点から、労働者の疲労回復のための措置を講ずるとともに、長時間にわたる恒常的な時間外労働の削減を図る必要があるとの認識の下に、必要な見直しを行なう。
[労働者の健康確保のための休日]
一定時間数(例えば、1ヶ月について40時間程度)を超えて時間外労働させた場合、労働者の疲労回復を図る観点から、時間外労働をした時間数に応じて算出される日数(例えば、1ヶ月の時間外労働が40時間超75時間以下の場合に1日、75時間超の場合に2日)の労働者の健康確保のための休日(法定休日)を、1ヶ月以内に付与することを義務付けることとする。この場合、中小企業については、労働者の人数が少ない中で事業場の業務の繁閑に対応できるようにするため、労使協定により弾力的に運用することができることとすることを検討する。
[時間外労働の抑制策としての割増賃金の引上げ]
長時間にわたる恒常的な時間外労働の削減を図るため、時間外労働の実態を考慮して設定した一定時間数(例えば、1ヶ月について30時間程度)を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金の割増率を引き上げる(例えば、5割)こととする。その場合、事業場ごとのニーズに対応できるようにするため、労使協定により、当該割増率の引上げ分については、金銭での支払いに代えて、労働者の健康確保のための一定数の休日(有給)を付与することを選択できるようにすることを引き続き検討する。
[その他の実効性確保策]
時間外労働の厳正な運用を図るため、法定の手続きを経ずに法定労働時間を超えて時間外労働を行なわせた場合の罰則を引き上げることを引き続き検討する。


 いずれも実務に対し、非常に大きな影響を与える内容ばかりです。の休日の付与については、それだけの時間数の時間外労働をしなければならない忙しい環境の中で、現実問題として休日を取得することができるのかという素朴な疑問が残りますが、の割増率の引上げについては、従来より欧米諸国に比べ、その割増率の低さが指摘されており、また今回は30時間を超える場合にという前提がつけられていることから、まず間違いなくこのまま法制化されるのではないかと考えています。


 今回の法改正の検討に関しては、長時間労働による労働者の健康阻害の防止と少子化対策という現在の環境ではその反論がしにくい大義名分があるため、このあたりの規制の強化については、かなりの高確率で法制化がされる可能性が高いでしょう。労務費のアップに直結する内容でもあるため、法改正に備えて時間外労働の適正化が求められますが、この問題は形式的に就業規則を見直せば良いというようなものではなく、社内の業務フローの見直しなど、構造的な課題を解決する必要があることがほとんどです。よって、今の時点から社内で時短プロジェクトを立ち上げるなど、早めのアプローチをすることが求められるのではないでしょうか。



参考リンク
労働政策審議会「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/06/dl/s0613-5a2.pdf
関連blog記事
2006年06月16日:労働政策審議会「労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(案)」公表
https://roumu.com
/archives/50604513.html

2006年06月19日:労働契約法の議論における有期労働契約に関するポイント
https://roumu.com
/archives/50605763.html

2005年07月29日:週60時間以上の男性社員の労働が少子化の原因?
https://roumu.com
/archives/29194243.html


(大津章敬)


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