「社員紹介報奨制度」を適法に導入するためにはどうすれば良いか調べてみました

 近年、首都圏を中心に求人募集を出してもなかなか人が集まらないという状況が続いています。如何にして必要な人員を確保するのかが、企業の人事担当者の腕の見せ所になっていますが、そんな中、「社員紹介報奨制度」の導入を検討する企業が増加しています。この制度は、従業員に友人などを紹介してもらい、紹介あるいは採用に至った場合に金一封といった報酬を支払うといった制度ですが、実際にこのような報酬を支給する場合、職業安定法第40条に違反する危険性があり、多くの場合、法令違反という認識がないままに実態が先行している状態にあるようです。


 しかし、なんとかこの「社員紹介報奨制度」は特に地方において大きな成果が期待できることから、なんとか適法にこれを行うことができないものかと考え、労働局や厚生労働省に問い合わせてみました。その最初の取っ掛かりは職業安定法第40条にある「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない」という部分。これを素直に読めば、会社の従業員が労働者の募集を行う場合においては、「賃金、給料その他これらに準ずるもの」を支払うのであれば法令に違反しないということになるのではないか。そう考え、厚生労働省等に確認したところ、会社の賃金規程に「手当」として支払うことを明示していれば問題はないという返答を得ました。賃金規程に定めを行うことの背景には、会社も従業員も中間搾取に該当するような無茶なことはしない、つまり歯止めのかかった状態になるという考えがあるようです。会社としては従業員に手当を支払うことになれば費用が発生するため、何でもかんでも手当を支払うことは考えられませんし、従業員としても手当額が決められているため、強引な募集をすることもないということのようです。


 ここで、その手当が果たして「賃金、給料その他これらに準ずるもの」に該当するかどうかということに疑問が出てきます。労働基準法上「賃金」とは、労働の対償として支払われるものとなっていますので、採用業務に従事していない者に対して労働の対償として手当を支払うことに違和感を感じます。そこで職業安定法第40条に立ち返ってみると、「賃金、給料その他これらに準ずるもの」とあるように、「賃金」よりも広い範囲が含まれており、例えば住宅手当のように労働の対償ではないが手当として支給しているものと同じように考えることができるでしょう。厚生労働省においては、心配であれば賃金規程に手当を記載した上で、管轄の監督署に「賃金、給料その他これらに準ずるもの」に該当するか否かを確認して欲しいと指導しているようです。しかし、監督署の方では賃金に該当するか否か判断する立場ではないとしているため、実際には賃金規程に手当として明示を行っていれば問題ないということになります。


 以上のことから判断すると、実務的には手当として定める際には無用なトラブルが起きないように、支給内容(対象となる従業員の範囲・支給条件・支給金額等)を決めておくことが求められます。この手当を導入する目的は、会社が効果的に人材を獲得していくことにあるため、この目的に沿うように運用していかなければ意味がありません。そのためには、上記のようなトラブルが起きないように支給内容をじっくり検討することが重要であり、また支給内容に当てはまった場合は、手当として必ず支給していくことが必要になるでしょう。


 今回は実務を行う中で疑問に感じたことを調査した結果を参考までにお伝えしました。やはり職業安定法第40条違反の危険性を孕んでいるようにも思いますので、実際に制度設計を行う際には労働基準監督署などの確認を行いながら進めるようにしてください。


[参考条文]
職業安定法 第40条(報酬の供与の禁止)
 労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えてはならない。


労働基準法 第6条(中間搾取の排除)
 何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。



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(福間みゆき)


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