[ワンポイント講座]欠勤日に年休を自動的に充当しても良いか
今月上旬、台風18号が日本列島を縦断し、各地に被害をもたらしました。この台風の影響で各地の公共交通機関は大混乱し、多くの企業では従業員の遅刻や欠勤が発生したのではないでしょうか。このような公共交通機関の乱れによる遅刻や欠勤については、使用者の責めに帰すべき事由による欠務ではありませんので、ノーワークノーペイの原則より、賃金の支払い義務はありません。しかしながら、このような場合は従業員の責任でもないということで、賃金控除をするのではなく、年次有給休暇(以下、年休)を充当して賃金控除を行わないといった処理を行う企業もあるのでははないかと思います。また通常の病欠の際にも年休を充当している企業も多いと思いますが、このように従業員が欠勤した場合、その従業員に年休が残っていれば、欠勤に先立って年休をその欠勤日に充当するという扱いをすることは法的に問題ないのでしょうか。
従業員の欠勤時において、使用者が従業員の意向を確認しないままに自動的に欠勤日に年休を充当するという処理を行うことには問題があります。この取り扱いを行うことは、会社としては年休の取得率が高まり、また従業員にとっても欠勤控除がされないことから、双方にとってメリットがあり問題ないと考えがちですが、原則として年休の時季選択権は個々の従業員にあります。つまり、自らの年休をいつ使用するかは、基本的に労働者の自由なのです。例外としては年休の計画的付与や時季変更権の行使がありますが、今回の例はそれには該当しませんので、従業員の意思によらず、年休の残余を自動的に欠勤日に充当することはできないのです。
しかしながらこれは欠勤時に従業員の申し出に基づき、欠勤日に年休を充当することをまで妨げるものではありませんので、恩恵的にそのような取り扱いを行うことは問題ありません。もっとも無制限に事後の年休申請を認めることは職場の規律の低下にも繋がる恐れがあることから、あらかじめ従業員の遅刻や欠勤に関する取り扱いを明確化し、一貫した対応ができるようにしておくことが求められます。
[参考法令]
労働基準法 第39条第4項(年次有給休暇)
使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
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(佐藤和之)
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