[ワンポイント講座]遅刻をした日の残業時間に割増賃金は必要か
風邪の流行や積雪による交通機関の乱れが起きやすい冬は遅刻も起きやすい季節ではないでしょうか。遅刻の場合、その日は通常の業務を処理するために残業を行う場合も多いと思います。そこで今回は、遅刻の日に残業を行った場合の割増賃金の取扱いについてお話しましょう。
例えば9時始業、18時終業(うち1時間休憩)の会社で、1時間の遅刻をしたとします。その日は遅刻をした分、終業時刻である18時までに業務を終えることができず1時間の残業をして、19時に仕事を終えたとすると、通常であれば時間外の割増賃金を支払っている18時から19時までの1時間について、割増賃金の支払いが必要か否かが問題となります。
労働基準法では、直接的な労働時間の定義がされていないため、何が労働時間であるかは解釈によるところとなりますが、この点について行政解釈では、「法第32条または第40条に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金の支払を要するのは、右の実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。従って、例えば労働者が遅刻をした場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算して法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金支払の必要はない」(昭29.12.1基収第6143号)とされており、実労働時間主義を採っていることが分かります。したがって、実際の労働時間が法定労働時間である8時間を超えなければ割増賃金を支払う必要はないということになります。すなわち、先ほどの例の場合、実労働時間は8時間ですので割増賃金の支払いは必要ないというわけです。
しかし、ここで注意していただきたいのは就業規則で「所定の終業時刻を超える残業に対し割増賃金を支給する」といった旨の規定をしている場合です。この場合には、先ほどの例のとおり、所定の終業時刻が18時である会社において19時まで勤務を行えば、実労働時間が8時間を超えていなくとも所定の終業時刻以後の残業について割増賃金の支払いが必要となります。したがって、18時から19時の1時間について割増賃金を支払う必要があります。細かな点ですが、就業規則の割増賃金支払いについての規定がどのようになっているかによって割増賃金の支払いの必要性の有無が異なりますので、就業規則をいま一度確認いただき、実態に即した条文にしていただくことがよいでしょう。
[関連法規]
労働基準法 第32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法 第36条
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。
労働基準法 第37条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
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(佐藤和之)
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