[ワンポイント講座]インフルエンザの予防接種を義務付けることはできるか

 明日はクリスマスイブ。今年も残すところ、あと1週間程度となりました。今年の後半は新型インフルエンザの対応に苦労された企業も多かったのではないでしょうか。新型インフルエンザについては接種の優先順位が定められるなどの混乱も見られましたが、そんな中、季節性のインフルエンザについては従業員全員に予防接種を義務付けたいという意向を持った企業も少なくなかったのではないかと思います。そこで本日のワンポイント講座では、インフルエンザの予防接種を従業員に義務付けることはできるのかという問題について取り上げてみましょう。


 インフルエンザワクチンの予防接種については、かつて幼児などに対して強制接種が行われてきましたが、有効性や安全性の点で問題があることから、予防接種法の対象から除外された経緯があります。その後、高齢者についてある程度の有効性が認められるとして、現在では予防接種法改正によって高齢者のみが定期予防接種の対象者とされています。しかしながら、インフルエンザは予防接種法上、「二類疾病」に位置づけられ、対象者のうち希望する者のみに接種を行い、高齢者であっても接種が強制されているわけではありません。


 一方、企業の労務管理という視点でこの問題を考えた場合、事業主には従業員が安全・健康に業務に従事できるよう安全配慮義務が課せられています。しかし、そういった予防接種法の経緯を鑑みるに、企業としても副作用がないとは言い切れないインフルエンザの予防接種を従業員に義務付けることには問題があるといえます。よって実務的には従業員に予防接種をさせたい場合には、努力義務に止め、予防接種の費用補助をするなどして、本人の自発的な接種を促すことが望まれます。


[関連法規]
予防接種法 第2条第3項
 個人の発病又はその重症化を防止し、併せてこれによりそのまん延の予防に資することを目的として、この法律の定めるところにより予防接種を行う疾病(以下「二類疾病」という。)は、インフルエンザとする。



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参考リンク
厚生労働省「インフルエンザ予防接種ガイドライン」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html


(佐藤和之)


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