[ワンポイント講座] 過払いしていた給与を返還させる場合の注意点

 給与計算の担当をしている方であれば、一度や二度はミスをして、誤った金額を支給してしまった経験をお持ちではないでしょうか。特に通勤手当のように毎月定額で支払うものは、そもそも金額が間違っていたとしても気づきにくく、また実際に申請した額よりも多く支給されていた場合にはなかなか社員からの申出もないため、数ヶ月に亘って誤支給を続けていたというようなことも少なくないはずです。このように給与を過払いしていることが判明した場合、会社はその過払い分の給与を返還させることができるのでしょうか?


 給与計算のミスがあった場合、来月の給与で調整させてもらうからと社員に説明し対応することがありますが、例えば長期に渡ってを過払いしていることが判明した場合などは過払い金額が多額になることから、翌月の給与で精算することは困難です。そもそも労働契約や就業規則の定めに基づいた金額よりも多くの給与が誤支給されていた場合、その過払い賃金について会社は不当利得返還請求権」により返還を求めることができます。なお、この不当利得は当事者の過失の有無に関係なく、「法律上の原因なく」利益を受けた場合に成立するという点がポイントとなります。


 次に、この不当利得となる過払い賃金は何年間まで遡って返還させることができるのでしょうか?この返還期間については、民法の一般原則(民法第167条第1項)に従うことになり、過去10年まで遡及することが可能です。ちなみに労働基準法第115条に消滅時効に関する定めがあり、賃金2年、退職金5年とされていますが、これは労働者の賃金等の請求権に関する消滅時効期間であるため、不当利得の返還期間の適用はありません。


 最後に具体的な返還の方法ですが、労働基準法第24条第1項に全額払いの原則が定められているため、法令で定めがあるものや賃金控除に関する協定書に定めてあるもの以外を会社が一方的に控除することはできません。ただし、判例(日新製鋼事件 最高裁第2小 平成2年11月26日判決)において社員の同意を得た場合は全額払いの原則に反しないとされていることから、了解を得た場合は相殺することが可能となります。そのため、今回のケースについては同意を得た場合、給与で精算できますが、金額によっては分割にしたり、賞与で精算するなど無理のないペースで対応することが望まれます。



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(福間みゆき)


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