[医療福祉労務管理連載(4)]有期雇用契約者の無期雇用契約への転換

kango 平成20年3月から施行されている労働契約法は、有期雇用契約にも関わりが深い法律ですが、有期雇用契約を巡り生じていたトラブル等を未然に防ぐために平成24年8月に大きく改正がされ、以下の3つの新たなルールが定められています。
無期雇用契約への転換
 有期雇用契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、職員からの無期雇用契約への転換の申込みにより、無期雇用契約に転換されます。
雇止め法理の法定化
 一定の場合には雇止めが認められないという最高裁判例で確立したいわゆる雇止め法理が法律上明文化されました。
不合理な労働条件の禁止
 有期雇用契約者と無期雇用契約者との間で、期間の定めがあるということによって不合理な労働条件の相違を設けることが禁止されます。

 今回はこの3つのルールのうち、無期労働契約への転換について取り上げ、無期雇用契約への転換とはどのようなものなのか、事業主としてはどのような対策が必要なのかを解説していきます。
[1]無期雇用契約への転換とは
 無期雇用契約への転換とは、有期雇用契約が通算で5年を超える場合、職員が希望すれば、雇用契約を無期雇用に変更できることを指します。多くの医療機関や福祉機関においては、有期雇用契約を繰り返し更新し、長期間にわたって雇用を継続している実態があります。そのため、新ルールにより職員側が雇用契約を無期雇用に転換できる権利を得たことは、医療機関や福祉施設の雇用管理に大きな影響を及ぼすため、無期雇用転換の仕組みを理解しておくことが重要です。ポイントは以下の5点となります。
(1)無期転換の申込み時期・方法
 平成25年4月1日以後に開始した有期雇用の契約期間が通算5年を超える場合、職員は事業主に対し、無期転換の申込みを行うことが可能です。この申込みを実際に行うかどうかは職員の方で選択することができ、職員が無期転換を希望しない場合は転換する必要はありません。なお、職員からの申込みは口頭で行われても有効となりますが、申込みの事実を確認するためには、申込みの意思表示を書面で提出させるとともに、事業主の方からも申込みを受けたことを確認する書面を職員に交付することをお勧めします。
(2)無期雇用への転換
 有期雇用契約の期間が通算5年を経過した後に、職員から無期転換の申込みが行われると、事業主はその申込みを承諾したものとみなされ、その時点で無期雇用契約が成立することとなります。職員から無期転換の申込みが行われた後は、既に無期雇用契約が成立しているため、従前の有期雇用契約期間の終了日において期間満了として契約を終了させることはできず、事業主側から一方的に退職をさせようとする場合には、解雇の要件を満たす必要性が生じます。
(3)無期転換後の労働条件
 無期雇用契約に転換された後の賃金や労働時間、職務内容等の労働条件は、別段の定めがない限り、直前の有期雇用契約時と同じ内容となります。しかしながら、無期転換をすると、契約期間以外の労働条件についても正職員と同様になるのではないかという疑義が生じやすいものです。転換後の労働条件について、事業主と職員の間で認識の差が生じないよう、あらかじめ労働条件を説明するとともに、雇用期間を無期とした雇用契約書を再締結し、書面上においても確認をしておくことが求められます。
(4)無期転換の権利の放棄
 有期雇用契約の更新時において、無期雇用契約への転換を申し込まないことを更新の条件にするなど、事業主側から職員に対してあらかじめ無期転換申込みの権利を放棄させることはできません。
(5)クーリング期間
 職員が無期転換の申込みを行うには、有期雇用の期間が通算5年を超えることが条件となります。通算5年の判断においては、契約と契約の間に6ヶ月以上の空白期間(クーリング期間)※があれば、前契約以前の期間は通算されない扱いとなっています。よって、無期転換の権利発生を避けようとするのであれば、通算5年を迎えないうちに当該職員を雇用しない空白期間(クーリング期間)を設ければ、またそれ以後5年は無期転換の権利が生じないことになります。なお、契約期間中に勤務先や職種を変えただけでは、空白期間(クーリング期間)とならないことは留意が必要です。
※通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があればそれ以前の期間は通算されません。

[2]無期雇用転換への対策
 上記のとおり、このいわゆる5年ルールのカウント対象となるのは平成25年4月1日以後に開始する有期雇用契約となり、平成25年3月31日以前に開始された有期雇用契約期間はカウントの対象にはなりません。そのため、無期転換の申込みができるまでまだ時間があることから無期転換の対策については未定のまま、ひとまず従来どおり有期雇用契約を継続しているという医療機関や福祉施設も多いようです。しかしながら、時間的に余裕のある今のうちに、現在の有期雇用契約の内容の見直しや無期転換を見据えた制度設計等を行い、早めの対策を取っておくことが重要になってくるでしょう。

 そして、今後、もし無期雇用契約への転換が実施された場合には、同じ職場内において、従来型の正職員と有期雇用から無期雇用に転換した職員とが存在し、無期雇用の職員といっても2種類ある状態となることで、その違いは一体何なのかと混乱が生じる可能性があります。こうしたケースに備え、両者の職務内容や処遇等についてあらかじめ整理しておくとともに、就業規則や賃金制度等の整備も早めに行っておくことが望まれます。


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2014年5月25日「[医療福祉労務管理連載(3)]労働契約法とはどのような法律か?」
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2014年4月12日「[医療福祉労務管理連載(2)]有期雇用契約を結ぶ際の注意点」
https://roumu.com
/archives/52030644.html

2014年3月21日「[医療福祉労務管理連載(1)]医療機関・福祉施設における有期雇用契約の現状と抱える課題」
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(小堀賢司

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