繁忙期は時間外労働が月80時間を超えてしまうのですが、どうすればいいですか?
ここ最近、大熊社労士は宮田部長に36協定のレクチャーをしていますが、今日はその4回目。近年の労務管理における最大の論点の一つである過重労働対策について取り上げたいと思います。
宮田部長:
36協定の時間数ですが、当社の実態を考えるとやはり繁忙期である2月、3月は「1ヶ月45時間」に収めるのが難しいですから、この2ヶ月間については「特別条項付き協定」が必要になりそうです。
大熊社労士:
そうですね。御社はお客様の関係でどうしても年度末が繁忙期になりますからね。仕方ないと思います。繁忙期の時間外労働ですが、現実的にはどのくらいの時間数になりますか?
宮田部長:
この2ヶ月間に限ってですが、多くの社員は80時間くらいの残業をしています。また年によっては100時間を超える社員が出ることもありますね。
大熊社労士:
そうですか、年度末の一時的なものとは言え、過重労働になることが心配ですね。
宮田部長:
はい、現実問題として数年前に、体調を崩した社員もいました。アルバイトを増やすなどの対応は可能な限りしているのですが、どうしても短納期の業務が一気に集中するものですから、残業時間が増えてしまいます。この時期は残業食や栄養ドリンクを職場に用意するといったことも行っていますが、大きな効果がある訳でもなく、実際に社員の疲労が蓄積していることは重々分かっています。会社としては、どのような対策が必要でしょうか。
大熊社労士:
数年前、サービス残業が大きな社内問題となった時期がありますが、最近はサービス残業以上に長時間労働自体が問題とされています。過重労働で健康を阻害し、最悪の場合、過労死に繋がるということが大きな課題として認識されており、いわゆる「過労死認定基準」と呼ばれるものも示されています。これによれば、医学的な立場から、労働時間と脳・心臓疾患発症との因果関係が証明されていおり、
時間外労働が1ヶ月に100時間を超える、あるいは2ヶ月~6ヶ月にわたって1ヶ月あたり80時間を超えると、仕事と発症との関係性が強い
時間外労働が1ヶ月~6ヶ月にわたって1ヶ月あたり45時間を超え、時間外労働が長くなればなるほど、仕事と発症との関係性が強まる
時間外労働が1ヶ月~6ヶ月にわたって1ヶ月あたり45時間以内であれば、仕事と発症との関係性は弱い
このような基準が示されているのです、よって基本的には時間外労働は月45時間以内にすること、そして繁忙期であっても80時間は超えないようにすることが求められています。
宮田部長:
あらら、当社の場合、年度末は見事に当てはまっていますね。困りました。
大熊社労士:
そうですね。まずは先ほどの通達の内容を受け、80時間を超えるような残業は発生させないという意識を持つことが重要です。これは社員の健康管理という意味と同時に、万が一の際の企業のリスクを下げるためにも非常に重要です。時間外労働というのは、社員や管理者の意識で改善できる部分もありますが、現実的にはそれだけで大幅な改善をすることは難しいと考えています。それこそ営業の仕事の取り方が問題ということもありますし、社内の業務フローに問題があるかも知れません。社員にハッパをかけるだけではなく、そうした構造的な問題がないかをしっかり検討することが重要です。
宮田部長:
まったく同感です。実際の仕事の様子を見ていても、社員がダラダラ残業を行っている訳ではないですからね。当社の場合は、営業が顧客の要求を聞き過ぎるところも問題ではないかと考えています。顧客満足度は重要ですが「お客様は神様です」といった態度で、社内を省みないのは、結局お客様にもご迷惑をお掛けすることになってしまいます。
大熊社労士:
本当にそうだと思いますね。この他には、平成18年4月の労働安全衛生法改正により、医師の面接指導制度というものが創設されています(常時50人未満の労働者を使用する中小事業場については平成20年4月から適用)。時間外が月100時間を超える場合、会社は医師による面接指導を行わなければならないと義務化されています。具体的な要件としては、
時間外労働(週40時間超)が月100時間を超えていること
疲労の蓄積が認められること
本人が申し出ていること
2ヶ月~6ヶ月にわたって月80時間を超えている場合や45時間を超えた場合については、努力義務となっていますが、本人の様子を見ながら会社の方から面接指導を受けてみてはどうかと投げかけていくことが重要になってきます。
宮田部長:
社員にこのような制度があることを周知しておく必要がありますね。
大熊社労士:
もし社員が倒れ、会社は面接を受けるように何も言わなかったということになれば、会社としての安全配慮義務が問われかねません。忙しくて面接指導を受けられなかった場合も、会社として十分な配慮がなされていないということになるでしょう。面接指導を受けるように促し、受診したかどうかのチェックも重要ですね。
宮田部長:
当たり前ですが、社員が過労で倒れたり病気になったりすることは、社員だけでなく会社も望んでいませんので、社員が健康な状態で働きつづけてもらえるようにしていきたいと思います。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は過重労働対策について取り上げてみました。宮田部長とのやり取りの中でもお話しましたが、現代の労務管理においては、社員の健康管理が最大の課題の一つとなっています。いわゆる過労死認定基準において長時間労働と健康阻害の関係が明示され、そこに登場する45時間、80時間、100時間という3つの数値が非常に大きな意味を持つようになっています。36協定の遵守は当然必要ですが、現実として80時間を超えるような長時間労働や深夜労働、休日労働などについては会社としてその実態を把握し、できるだけそうした過重な労働が行われないようにする必要があります。こうした対策はまずは直接的には社員の健康を保持するためですが、同時に企業としてのリスクマネジメントの視点からも不可欠であると考えるべきでしょう。
[関連条文]
労働安全衛生法 第66条の8(面接指導等)
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
2 労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第1項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
4 事業者は、第1項又は第2項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
5 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
関連blog記事
2007年12月3日「36協定の限度時間と特別条項とは何ですか?」
https://roumu.com/archives/64751919.html
2007年11月26日「36協定の労働者代表はどのように選出すれば良いのですか?」
https://roumu.com/archives/64742927.html
2007年11月19日「本社で36協定を届け出るだけではダメなのですか?」
https://roumu.com/archives/64734929.html
2007年2月8日「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52082070.html
参考リンク
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html
厚生労働省「過重労働による健康障害防止のための総合対策について(H18年3月17日基発0317008号)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/ka060317008a.pdf
中央労働災害防止協会「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」
http://www.jisha.or.jp/web_ch/td_chk/tdchk_e_index.html
独立行政法人労働者健康福祉機構「自発的健康診断支援助成金のご案内」
http://www.rofuku.go.jp/sanpo/jyoseikin/jyosei01.html
独立行政法人労働者健康福祉機構「地域産業保健センターのご紹介」
http://www.rofuku.go.jp/sanpo/chiiki/chiiki00.html
(福間みゆき)
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