産業医にはどのような役割があるのですか?

 服部印刷では現在、社内の安全衛生管理体制の見直しを行っている。前回は衛生管理者についての説明を受けたが、今回はそれに引き続き、産業医の検討を行うこととなった。



大熊社労士:
 これまで安全管理者および衛生管理者の話をしてきましたが、引き続いて産業医についてお話しましょう。従業員50人未満の場合は、産業医を置くように努める、つまり努力義務でしたが、従業員50人以上の事業場については、業種に関係なく選任する必要があります。
宮田部長:
 ということは当社でも産業医を置かなければならないということですね。その産業医とはどのような人でしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 産業医として選任されるための資格については、次のいずれかに該当している必要があります。
(1)厚生労働大臣の定める研修修了
(2)保健衛生について労働衛生コンサルタント試験合格
(3)大学で労働衛生の科目について常勤講師以上の経験
(4)その他厚生労働大臣が定める者
 実務的にはお知り合いの先生であったり、近くで開業・勤務されている先生にお願いすることが多くあります。また、全国各地にある地域産業保険センターで産業医の登録を行なっていますので、そちらを活用する方法もありますよ。
宮田部長:
 そもそも産業医というのはどのような役割を負っているのですか?
大熊社労士:
 はい、具体的には次のような職務を担うとされています。
健康診断及び面接指導等の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
作業環境の維持管理に関すること。
作業の管理に関すること。
その他労働者の健康管理に関すること。
健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
衛生教育に関すること。
労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
 実際のところで言えば、健康診断の結果に基づく事後措置や再発防止の措置指導、健康相談や健康診断の実施の業務が多くなっていますね。また、以前、うつ病の社員に休職を勧めるときの注意点についてお話しました(関連blog記事2008年1月28日「うつ病の社員に休職を勧めるとき、どのようなことに注意すればよいですか?」参照)が、休職を命ずるか否かであったり、復職できるか否かの判断を産業医に相談することもあります。
宮田部長:
 そうでした。ということはやはり事業所にも足を運んでもらえるように、比較的近くの先生に産業医をお願いするのが良さそうですね。産業医は、安全管理者や衛生管理者のように専属にしなければならないのでしょうか?
大熊社労士:
 いえ、御社の場合は専属でなくても構いません。大規模事業場や有害業務従事者の多い事業場については、産業医の職務が膨大となってしまうため、専属であることが必要になっています。ちなみに専属の産業医が必要となるのは、(1)常時1,000人以上の事業場、(2)常時500人以上で、一定の有害業務を行う事業場のいずれかです。
宮田部長:
 実務を考えた場合に、他に押えておくべきことはありませんか?
大熊社労士:
 そうですね。近年、過重労働やメンタルヘルスが問題となっているため、長時間労働者に対する医師の面接指導が義務づけられました。そのため、月100時間を超えて時間外労働をさせている場合は面接指導を実施する必要がありますね。この場合、通常は産業医との面談を設定することになります。なお具体的な要件としては、次の3つを満たす場合となっています。
法定労働を超える時間外労働の時間数が月100時間を超えていること
疲労の蓄積が認められること
本人が申し出ていること。
宮田部長宮田部長:
 これも以前、36協定の時間数について相談したときに聞いていましたね。(関連blog記事2007年12月10日「繁忙期は時間外労働が月80時間を超えてしまうのですが、どうすればいいですか?」参照)医師の面談を行っているのか否かといったことも、会社の安全配慮義務に含まれるということは頭に入っています。健康管理において、産業医の果たす役割はとても重要ですね。
大熊社労士:
 もうひとつ産業医に関する責任について、補足しておきます。産業医を選任していなかったり、選任した産業医が十分な任務を行なっていない場合、労働安全衛生法第13条違反の刑事責任は事業者に課せられることなります。たとえ産業医が毎月1回の作業場の巡視を怠っていたとしても、国に対する責任は産業医ではなく、会社が負うことになります。
宮田部長:
 なるほど、となると産業医と連携をとり、社員が健康で、そして安全な環境で働ける職場をつくっていくことが必要なのですね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は、産業医の役割について取り上げてみました。以下では先程取り上げた医師による面談指導について、補足しておきましょう。従業員50人未満の事業場については、医師による面接指導の実施対象にはなっていませんでしたが、この4月より実施義務となります。産業医を選任していない事業所については、地域産業保健センターに登録している産業医を活用するなどして、長時間労働になっている従業員に対して産業医による面接指導を行なう必要があります。産業医を選任していない事業場については、産業医の要件を備えた医師を共同して選任した場合に要した費用の一部を助成する制度「小規模事業場産業保健活動助成金」があります。



関連blog記事
2008年3月10日「衛生管理者が長期で休んでしまったら、どうすれば良いのでしょうか?」
https://roumu.com/archives/64834167.html
2008年3月3日「従業員50名以上になったときに求められる安全衛生管理体制とは?」
https://roumu.com/archives/64834156.html
2008年1月28日「うつ病の社員に休職を勧めるとき、どのようなことに注意すればよいですか?」
https://roumu.com/archives/64790572.html
2007年12月10日「繁忙期は時間外労働が月80時間を超えてしまうのですが、どうすればいいですか?」
https://roumu.com/archives/64759297.html


参考リンク
鳥取労働局「労働者数50人未満の事業者の皆様へ~医師による面接指導で長時間労働者の健康確保を!」
http://www.tottori-rodo.go.jp/seido/pdf/isi_sidou.pdf
厚生労働省「総括安全衛生管理者等の選任義務」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/anzen00/5.html
厚生労働省「産業医について」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/080123-1.html
独立行政法人労働者健康福祉機構「小規模事業場産業保健活動支援促進助成金」
http://www.rofuku.go.jp/sanpo/jyoseikin/jyosei00.html
厚生労働省「平成17年労働安全衛生基本調査結果の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/saigai/anzen/05/index.html


(福間みゆき)


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