派遣が始まる前に派遣労働者に面接をしてはいけないのですか?

 服部社長と宮田部長は、労働者派遣が必要になったときのことを想定し、事前にその基礎的知識を学んでいる。今回は、その最後のレクチャーとなった。



宮田部長:
 派遣会社との契約ができたら、どのように派遣労働者を紹介してもらえるのですか?複数の履歴書を見せてもらって、選んだりすることができるのでしょうか?
大熊社労士:
 宮田部長、お気持ちはよく分かりますが、派遣が実際に行われる前に面接を行ったり、履歴書を見せてもらったりすることはできないんですよ。
宮田部長宮田部長:
 そうなのですか!てっきりお見合いのようなものが行われるんだと思い込んでいましたよ!しかし、それでは派遣労働者を受け入れる派遣先にとっては不安ですね。どのような理由からそのように決められているのですか?
大熊社労士:
 はい、そもそも労働者派遣は、特定の業務を処理してもらうための知識や技能等を備えた労働者が派遣されることですので、派遣先の注文に合わせた業務が処理できれば良いはずです。よって、それ以上の条件を課すことは派遣労働者の雇用に対して必要以上に制限をかけることになるという考えに基づいています。また、事前に面接を行うことは、派遣先に事実上採用の自由を認めることにも繋がりますので、予定紹介派遣を除いて、派遣労働者を特定するような目的の行為をしないように努めなければならないと労働者派遣法では規定されています。派遣先が社員を直接採用し、雇用するのとは違うということを、理解する必要がありますね。
服部社長服部社長:
 そうですか、分かりました。労働者派遣には思っていた以上に、様々な制約があるようですね。ところで、いまの説明の中に出てきた予定紹介派遣とは、どのような制度なのでしょうか?
大熊社労士:
 予定紹介派遣というのは、「テンプ・トゥ・パーム」とも呼ばれる労働者派遣の一つですが、後に派遣先の社員として紹介を受けることを事前に予定している制度です。いわゆる社員として採用されるためのトライアル的な派遣制度と思っていただければよいでしょう。
服部社長:
 この予定紹介派遣のときには、派遣前に事前面接を行ってもよいのですね?
大熊社労士:
 はい、一般の派遣と異なり職業紹介も兼ねていますから、予定紹介派遣のときは事前に面接を行っても構わないことになっています。なお、トライアルの制度ですので、結果的に採用しなくても問題はありませんが、派遣期間は6ヶ月までと短くなっています。
服部社長:
 分かりました。わが社で、実際に派遣労働者を受け入れることになった場合、他に注意すべきことはありますか?
大熊社労士:
 よくありがちな問題は、派遣契約の範囲を超えた業務に就かせたり、指揮命令してしまうという取り扱いですね。
宮田部長:
 関連する業務というのはどのように考えればよいのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 例えば、準備や整理、後片付け等などは派遣業務に通常関連することとして、与えられた業務を円滑に行うために必要なことと判断されますので問題はありません。しかし、まったく異なる業務を行わせる場合は、新たに派遣契約をし直す必要があります。また、派遣先は派遣労働者ごとに派遣先管理台帳を作成しなければなりません。決められた様式はありませんが、記載すべき項目として派遣労働者の氏名、派遣元の会社名・所在地、就業が開始された日、就業をした日ごとの始業・終業時刻と休憩時間、派遣業務の種類、派遣労働者からの苦情の処理に関すること、派遣先・派遣元の責任者、社会保険等の加入状況などとなっています(派遣先管理台帳の書式はこちらよりダウンロードできます)。
服部社長:
 大熊さん、ありがとうございました。この先、派遣労働者が必要になるかどうかはわかりませんが、基本的な知識は得られたと思います。実際、派遣労働者を受け入れることになったときには、また相談することがあると思いますので教えてください、よろしくお願いします。
大熊社労士:
 もちろんです。そのときには改めてご相談ください。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は派遣労働者の受け入れのときの注意事項について取り上げてみました。派遣先は、派遣労働者を受け入れるときに派遣先責任者を選ばなければなりません。ただし、使用する派遣労働者が5人以下の場合や1日だけ派遣を受け入れる場合は選任しなくてもよいことになっています。なお、派遣先責任者を選任しない場合には、罰金を科せられますので注意してください。また、派遣労働者の受け入れに際して、派遣先にも労働基準法や労働安全衛生法、男女雇用機会均等法などで適用される事項があります。特に、正社員と比較すると派遣労働者の方がセクハラ、パワハラの対象になりやすいので注意が必要です。以上で、労働者派遣に関する今回のシリーズは終了します。


[関連法規]
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第2条(用語の意義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
6.紹介予定派遣 
 労働者派遣のうち、第5条第1項の許可を受けた者(以下「一般派遣元事業主」という。)又は第16条第1項の規定により届出書を提出した者(以下「特定派遣元事業主」という。)が労働者派遣の役務の提供の開始前又は開始後に、当該労働者派遣に係る派遣労働者及び当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(以下この号において「派遣先」という。)について、職業安定法その他の法律の規定による許可を受けて、又は届出をして、職業紹介を行い、又は行うことを予定してするものをいい、当該職業紹介により、当該派遣労働者が当該派遣先に雇用される旨が、当該労働者派遣の役務の提供の終了前に当該派遣労働者と当該派遣先との間で約されるものを含むものとする。


労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第26条(契約の内容等)
 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。
7 労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない。


労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第41条(派遣先責任者)
 派遣先は、派遣就業に関し次に掲げる事項を行わせるため、厚生労働省令で定めるところにより、派遣先責任者を選任しなければならない。
1.次に掲げる事項の内容を、当該派遣労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者その他の関係者に周知すること。
イ この法律及び次節の規定により適用される法律の規定(これらの規定に基づく命令の規定を含む。)
ロ 当該派遣労働者に係る第39条に規定する労働者派遣契約の定め
ハ 当該派遣労働者に係る第35条の規定による通知
2.第40条の2第5項及び次条に定める事項に関すること。
3.当該派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に当たること。
4.当該派遣労働者の安全及び衛生に関し、当該事業所の労働者の安全及び衛生に関する業務を統括管理する者及び当該派遣元事業主との連絡調整を行うこと。
5.前号に掲げるもののほか、当該派遣元事業主との連絡調整に関すること。


労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 第42条(派遣先管理台帳)
 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣労働者ごとに次に掲げる事項を記載しなければならない。
1.派遣元事業主の氏名又は名称
2.派遣就業をした日
3.派遣就業をした日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間
4.従事した業務の種類
5.派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
6.紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
7.その他厚生労働省令で定める事項
2 派遣先は、前項の派遣先管理台帳を3年間保存しなければならない。
3 派遣先は、厚生労働省令で定めるところにより、第1項各号(第1号を除く。)に掲げる事項を派遣元事業主に通知しなければならない。



関連blog記事
2008年6月23日「派遣期間の制限を超えた場合は、どのようになるのでしょうか?」
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2008年6月16日「派遣期間の制限は派遣社員や派遣会社が変わった場合、どのようになるのですか?」
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2008年6月9日「派遣労働者の受入には期限があるのですか?」
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2008年6月2日「派遣と請負とは何が違うのですか?」
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2008年03月22日「派遣先事業主・派遣元事業主に課せられた労働法の適用(労働基準法編)」
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2008年03月17日「産業医選任義務の従業員数50名に派遣労働者は含めるのか」
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2008年3月15日「派遣先責任者選任義務の範囲」
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2007年10月20日「8年間で企業における派遣労働者の割合が倍増!」
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2008年5月28日「派遣先管理台帳(平成20年4月改正版)」
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参考リンク
厚生労働省「労働者派遣事業・職業紹介事業等」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai.html
東京労働局「労働者派遣事業関係」
http://www.roudoukyoku.go.jp/seido/haken/conttop.html
Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog「労働者派遣関連書式」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/cat_50241670.html


(鷹取敏昭)


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