固定残業給を採用するためにはいくつかの要件があります

 今週は先週のブログ記事「研究開発職などには裁量労働時間制の採用も効果的です」に引き続き、未払い残業代請求問題の連載の9回目。今週は対策編の第3回ということで、質問の多い固定残業給の取扱いについて解説する。



服部社長服部社長:
 大熊さん、時間外割増賃金は原則として実績に基づき、1分単位で個別に支払う必要があるというのはよく理解しましたが、私の知り合いの会社で残業代を固定的に支給しているという話を聞いたことがあるのですが、これは適法なのでしょうか?
大熊社労士:
 なるほど、固定残業給であるとか定額残業制と呼ばれるものですね。時間外割増賃金に相当する金額を毎月の給与の中で定額払いとすることは、いくつかの要件を満たすことによって有効とされています。
服部社長:
 要件があるのですね。それはどのようなものでしょうか?
大熊社労士:
 はい、原則的には以下の3つの要件の充足が求められています。
就業規則や労働契約において、賃金の中に時間外割増賃金が含まれることが明確にされていること
従業員に賃金に含まれる時間外割増賃金の部分が明確に区分され、示されていること
賃金に含まれている時間分を超える時間外労働が発生した際には、その超過した時間にかかる時間外割増賃金を別途支払うこと
宮田部長:
 なるほど。の要件ですが、時間外割増賃金の部分が明確に区分される必要があるということは基本給の中に含まれるというような決め方では問題ということなのでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。基本的には独立した手当項目として他の賃金とは区分して支給することになります。時間外割増賃金の固定的先渡しということを明確にするために「固定残業手当」といった名称にしておくと良いでしょう。
宮田部長宮田部長:
 分かりました。の要件ですが、これは固定残業手当が月30時間分の時間外割増賃金に相当するとした場合、実際の時間外労働が45時間あったとすると、その差である15時間分は別途支給する必要があるということですね。
大熊社労士:
 そのとおりです。
服部社長:
 なるほど。あくまでも固定的に先渡しするだけで、前回説明を受けたみなし労働とは異なるのですね。
大熊社労士:
 はい、そこはよく間違えられる重要ポイントです。みなし労働が適用できるのは事業場外労働と裁量労働だけです。よってそれに該当しない場合にはあくまでも時間外割増賃金の固定的先渡しになります。よって実際の時間外労働の時間数がその設定時間数を超えた場合には別途支払いが求められるのです。
服部社長:
 となると結局は実績で支給する訳だから、あまり意味がないようにも思えるね。
大熊社労士:
 そうですね。意味があるとすると、例えば賞与の支給水準を下げて、原資を捻出した上でそれを固定残業手当として毎月の賃金に上乗せする方法ですね。労働基準法で支払いが義務付けられている時間外割増賃金を支給せずに賞与を支給するというのは法的にはあり得ない話ですから、その原資を活用し、未払いをなくしていくのです。
服部社長:
 ただ賞与というのは従業員個々の半期の仕事の状況を評価して、それを反映していくものですから、その原資が減ってしまうのは人事制度としてはどうなんでしょうね?
大熊社労士大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。人事制度の効果という点で見れば、結局は労働時間が長い者の年収が増える話になってしまいますから、万全な策とはいえませんね。また毎月の賃金に上乗せすることで、人件費が固定化してしまうリスクも見逃すことはできません。しかし、未払い残業代問題のリスクを下げるという視点では間違いなく有効な対策です。あとはバランスを考えながら、他の様々な対策と同時並行的に検討することが必要です。
宮田部長:
 そうですね。
大熊社労士:
 また従来、毎月の賃金の中に一定の時間外手当を含んでいると説明していた企業については、改めて固定残業給を適法に整備することも検討すべきでしょう。もっともこの場合は、労働条件の不利益変更に該当する場合も少なくないと思いますので、従業員に十分な説明を行い、同意をもらいながら進めていくのが基本線となります。
宮田部長:
 なるほど、参考までに就業規則にどのように規定すればよいか教えていただけませんか?
大熊社労士:
 はい、規定の仕方にはいくつかのパターンがありますが、もっとも分かりやすいのは以下のような条文でしょうね。
「○○職に対しては、○○円の時間外労働手当相当分を固定残業手当として支払う。なお、その月の実際の時間外労働手当、法定休日労働手当および深夜労働手当の合計額が本手当を超えた場合は、その超過分について支払う。」
宮田部長:
 ありがとうございます。当社でも採用の検討をしてみます。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は未払い残業代請求問題の対策の一つとして固定残業給の設定について取り上げました。固定残業給は文中の要件を満たすことで適法に導入が可能ではありますが、実際の導入においては労働条件の不利益変更の問題が出やすいのが実情です。形式的に固定残業を設定し、時間外割増賃金の支払いを逃れるような取扱いは後々のトラブルの原因となりますので注意しましょう。なお、固定残業給において「時間外割増賃金○時間分を含む」というように時間数を明記する例も多いようですが、そこまでの必要はないとされています。但し、従業員がその計算をできるように明確な区分と計算根拠の明示は欠かさないようにしましょう。




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(大津章敬)


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