労働時間集計の端数処理のミスで発生する未払い残業代
これから大きな問題になることが懸念されている未払い残業代請求問題。現在それをテーマとした連載を行なっているが今週は前回のブログ記事「意外に多い「単価計算ミス」による未払い残業代の発生」に引き続き、労働時間集計における端数処理の問題について取り上げることとした。
大熊社労士:
前回は時間外割増単価の計算ミスによる未払い残業代の発生という問題をお話しましたが、これ以外にも未払いが発生するいくつかの典型的パターンがあります。今回は労働時間集計における端数処理のミスによる未払い残業代の問題についてお話しましょう。御社では、残業時間を初めとした労働時間を集計するときにはどのようにされていますか?
宮田部長:
当社では各日の労働時間の端数を15分単位で切捨てとしています。つまり、1時間14分だと1時間、1時間16分だと1時間15分というように計算しています。この処理に問題があるのですか?
大熊社労士:
そうですね。問題があるか、ないかと言われれば基本的には問題あると言わざるを得ません。この労働時間集計の端数計算については「1ヶ月における時間外労働の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切捨て、それ以上を1時間に切り上げることは、常に労働者の不利になるものではなく、事務簡素化を目的としたものと認められるから、法第24条及び第37条の違反としては取り扱わない」という通達(昭和63年3月14日 基発第150号)が出されています。
服部社長:
当社の場合は毎日の労働時間で15分単位の端数処理を行なっていますが、通達で認められているのは各日については1分単位で計算し、1ヶ月で合計したところで端数処理を行なうということなのでしょうか?
大熊社労士:
はい、そのとおりなのです。先日も御社同様の取扱いを行なっているある自動車部品製造大手の企業が毎日30分未満の時間を切り捨てて時間外手当の計算を行なっていたとして、労働基準監督署の是正勧告を受けていました。報道によればその精算金の支払いはなんと3億円にも上ったということです。
宮田部長:
3億円ですか?!大企業とはいえ、この端数処理だけでもとんでもない金額の未払いが発生するのですね。塵も積もれば山となる、端数も積もれば、大金となるといった感じですね。
大熊社労士:
そうなんです。現実的に御社やこの是正勧告を受けた大企業と同様に一定の時間数未満の労働時間を毎日切り捨てているという企業はかなり多いと思われますが、そうした企業のほとんどはこれが問題であるとはあまり認識していません。よって労働基準監督署や外部ユニオンなどの第三者から指摘を受け、その未払いが発覚することが多いのです。つまり、未認識の債務が突如として白日の下に晒されるといった感じでしょうか。それだけにこの端数処理のミスは怖いですね。
服部社長:
しかし、毎日1分単位で計算するというのもどうなんでしょうね?当社の場合は事務所の入口のところ1箇所にしかタイムカードがありませんから、職場を出て、タイムカードを打刻するまでに10分程度はかかってしまいます。だから15分未満切捨てとしてきたのですが。
大熊社労士:
これは難しい問題ですね。労働基準監督署の調査においては一定の合理的な範囲で、そうした柔軟な取扱いを認めてくれるようなことがないこともないですが、外部ユニオンや弁護士からの請求においては法律どおりの請求がなされますので、なかなか抗弁するのは難しいでしょうね。
宮田部長:
なにか対策はあるでしょうか?
大熊社労士:
そうですね。まず切捨てをする時間数はできるだけ短くしておくことが求められるのは言うまでもありません。その上でタイムカードの場所がその原因になっているのであれば、各職場の入口に配置するなどの対応も必要かも知れません。その上で従業員が残業を行う場合には、会社からの指示もしくは本人からの申請および会社の承認を確実に実施し、業務としての残業時間を別途しっかり把握しておくことも重要です。
宮田部長:
残業を行なわせるときには、命令もしくは承認を行うということですね。
大熊社労士:
その通りです。この残業命令の問題は労働時間管理において非常に重要な論点ですから、次回詳しくお話しましょう。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は労働時間集計における端数処理の問題について取り上げました。現実的に多くの会社では服部印刷同様の端数処理を行なっているというのが実態ではないかと思います。本文中で昭和63年3月14日の通達による端数処理の正しい方法を解説しましたが、このルールを理解している企業は非常に少なく、多くの企業では無意識のうちに法違反をしてしまっているのです。特に今後、外部ユニオンや弁護士・司法書士などが未払い残業代の請求のサポートを行なうようになると、こうした細かい未払いについても指摘をしてくることは確実です。よって企業としては労働時間管理の仕組みを見直した上で、この未払いをできるだけ小さくしておくことが求められます。
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(大津章敬)
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