定期健康診断の受診費用は会社が負担しなければならないのですか?
毎年会社が実施している健康診断を受診せずに、毎年自分で病院を選んで健康診断を受診する従業員がいる。その健康診断の取扱について疑問を持った宮田部長は、大熊社労士に確認してみた。
宮田部長:
当社では毎年1回、従業員に定期健康診断を実施しています。その費用は会社が負担しているのですが、そもそもこれは会社が負担すべきものなのですよね?
大熊社労士:
はい、健康診断の費用については、労働安全衛生法(第66条)において事業者にそ実施義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであることとされています(昭和47年9月18日 基発602号)。
宮田部長:
そうですよね。ところで当社では、会社で実施する健康診断を受診しない従業員には任意の病院で健康診断を受診してもらってもよいとしているのですが、この費用についてもやはり会社が負担すべきものなのでしょうか?
大熊社労士:
管理資料の一元化などの観点からもできれば会社指定の医療機関で健康診断を受診して欲しいところですが、先ほどの労働安全衛生法 第66条の第5項では「労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない」とし、その結果を証明する書面を会社に提出することを条件に、会社指定医以外での健康診断の受診を認めています。その場合の費用負担については特に定めがありませんので、原則としては会社は費用負担をする必要はないと解することができます。
宮田部長:
そうなんですね。とはいえ、他の従業員については会社がその費用を負担していますので、まったく支給しないということで良いのかは迷うところです。
大熊社労士:
なるほど。とは言え、健康診断の受診料は医療機関によってバラつきがありますので、その全額を会社が支給するという訳にもいかないでしょう。例えば、会社の健康診断費用を上限に会社が支給するというような運用を考えてもよいかもしれませんね。
宮田部長:
なるほど、それはいい考えですね。ところで健康診断の受診に要する時間についてはどのように考えればいいのでしょうか?
大熊社労士:
健康診断実施に要した時間が労働時間であるか否か、つまり賃金を支払う必要があるのかということですね?
宮田部長:
はい、そういうことです。
大熊社労士:
そもそも御社では、健康診断をいつ実施されていますか?平日でしょうか?
宮田部長:
はい、当社では平日の午前中に検診車を呼んで実施します。所定労働時間中に受診させているので給料を支払っていることになりますね。
大熊社労士:
なるほど、理想的な取扱ですね。定期健康診断の実施時間については、法はその時間分の賃金を支払うことまでは求めていません。しかし、通達においては、労働者の健康の確保は事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、会社が実施する健康診断受診に要した時間の賃金を支払うことが望ましいとしています。
宮田部長:
そうですか、健康診断受診の時間を労働時間とすることは特に強制されているわけではないのですね。
大熊社労士:
はい、この点については通達において「一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではない」とされています。よって本来的には賃金支払義務はありません。
宮田部長:
なるほど、よく分かりました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。 こんにちは。大熊です。以下では特殊健康診断についてもご紹介しておきましょう。特殊健康診断とは、有害業務従事者に対して会社が実施を義務付けられているものを言いますが、通達においては「特殊健康診断は事業の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること」としています。また、受診に要した時間の賃金についても「特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので当然健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならない」としており、特殊健康診断については、時間と賃金についての取扱は明確になっています。
[関連通達]
昭和47年9月18日 基発602号
一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、受診のために要した時間については、当然には事
業者の負担すべきものではなく、労使協議によって定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。
特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、業務の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解される。したがって当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること。
労安法第66条第1項から第4項までの規定により実施される健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものである
[関連法規]
労働安全衛生法 第66条(健康診断)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。
4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。
5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
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2010年7月26日「海外派遣労働者の健康診断について教えてください」
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(中島敏雄)
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