派遣社員を雇入れる際にも健康診断は実施しなくてはなりませんか?

 食欲の秋、健康診断結果が戻ってきた宮田部長はその結果にショックをうけていた。一方同じく食欲の秋の大熊社労士は、、、


宮田部長宮田部長:
 こんにちは、大熊先生。いやあ、健康診断の結果がもどってきましたが、体重も腹囲も順調にじりじりと成長しています。日本経済も私の体重と腹囲のようにゆったりと右肩上がりの安定成長曲線を描いてほしいものです。
大熊社労士:
 あははは(笑)宮田部長、実は最近は私も飲み会続きで、3ヶ月でなんと4キロも太ってしまいました。
宮田部長:
 健康診断といえば、今度新たに派遣社員を1人雇入れるのですが、派遣社員についても、雇入れ時の健康診断は実施しなければいけないんでしたっけ?
大熊社労士:
 派遣社員に対する健康診断ですね。わかりました。今日は派遣社員に対する健康診断についてお話しましょう。ところで宮田部長、健康診断には、大きく分けて2種類あるのですが、ご存知ですか?
宮田部長:
 えっと、雇入れ時の健康診断と定期健康診断ですかね?
大熊社労士:
 そうですね、一般的に企業で行われている健康診断といえば、雇入れ時の健康診断と定期健康診断ですが、法律上では、2種類の健康診断というと、一般健康診断と特殊健康診断の二つのことを言います。宮田部長のおっしゃった、雇入れ時の健康診断と定期健康診断はともに一般健康診断に分類されるんですよ。
宮田部長:
 一般健康診断と特殊健康診断ですか?あまり聞いたことがないですね。
大熊社労士大熊社労士:
 確かに日常的に使われる用語ではないと思います。一般健康診断というのは、労働者の一般的な健康を確保するという目的で行われる健診のことです。一方の特殊健康診断というのは、一定の危険有害な業務に従事する労働者に対してその健康状態を把握するために行われる健診をいいます。
宮田部長:
 そうなんですか。特殊健康診断というのは具体的にはどのような業務に従事する場合に実施する必要があるのですか?。
大熊社労士:
 そうですね。たとえば、高圧室内業務やエックス線その他有害放射線にさらされる業務、じん肺にかかる恐れのある粉じん作業などに従事する者に、特殊健康診断の実施が義務づけられています。実はこの特殊健康診断については、派遣先が実施するものとされています。
宮田部長:
 なるほど、危険な業務や有害な業務は指揮命令権のある派遣先の指示によって行われるため、派遣先に実施の義務があるというわけですね。ん、ということは一般健康診断である雇い入れ時の健康診断については、一般的な内容なので派遣先ではなく、派遣元が実施していればよいということですかね?
大熊社労士:
 ええ、おっしゃるとおりです!このように労働基準法や労働安全衛生法上の使用者責任は、本来、労働者の雇用主である派遣元が責任を負うべきものですが、派遣労働については、指揮命令権を派遣先が持つため、派遣労働者と直接雇用関係にない派遣先も、一部使用者責任を負うことになっている為注意が必要です。
宮田部長:
 なるほど、特殊健康診断は当社では当てはまる業務はありませんが、派遣先にもいろいろな責任があるということは認識しておかないといけませんね。
大熊社労士:
 そうですね。特殊健康診断の実施については、派遣先に義務付けられている一方で、健康診断の結果通知は派遣元が義務を負いますから、派遣先が特殊健康診断を実施した場合は、健康診断個人票を作成し、その書面を派遣元に送付する必要があります。ちなみにもし、この通知をしなかった場合には、30万円以下の罰金が課されますので、注意が必要です。
宮田部長:
 それは大変ですね。当社でも特殊健康診断をするような業務が発生した場合は絶対にわすれないようにしないといけませんね。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは大熊です。一般健康診断と特殊健康診断に対する比較として、その実施時間についての行政解釈も微妙に異なっていることは興味深いです。
 一般健康診断については、受診した時間については、当然には事業主の負担すべきものではなく、労使協議によって定めるべきものであり、事業者が負担することが望ましいとしているのに対し、特殊健康診断については、所定労働時間に行われるのを原則とし、受診時間は労働時間と解されると断定しています。

 

[関連通達]
昭和47年9月18日 基発602号
一般的な健康の確保を図ることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行われるものではないので、受診のために要した時間については、当然には事業者
の負担すべきものではなく、労使協議によって定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。
特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いやゆる特殊健康診断は、業務の遂行にからんで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間に行われるのを原則とすること。また、特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解される。したがって当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること。
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2009年6月17日「[ワンポイント講座]健康診断の費用は会社が負担しなければならないのか」
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(中島敏雄)
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