年次有給休暇の計画的付与とはどのような制度なのですか?

 服部印刷では現場に新しい設備を導入することになったのだが、その設置作業の日程でちょっとした問題が発生していた。


服部社長:
 宮田部長、例の新しい設備の導入の件だが、どのような日程で進んでいるかな?
宮田部長:
 はい、それが納入業者との間で少し問題が起きていまして、平日であればすぐにでも設置できるそうなのですが、週末指定となると3ヶ月先まで対応できないということなのです。
服部社長:
 3ヶ月も先になってしまうのか。それは困ったな。できれば来月の半ばくらいには稼動させたいと思っていたのだが…。
宮田部長宮田部長:
 そうですよね。現場の方もそのように言っておりますので、業者になんとかならないかと交渉しているのですが、これがなかなか…。しかし、平日に設備の設置を行うとなると工場の操業を停止しないといけませんからね。
服部社長:
 そうだな。とは言え、やはり設備の導入を早めて顧客のニーズに対応することの方が重要だろう。1日だけどこかで平日を休みにして、設備の設置を行うことにしよう。大熊さん、社員の休みはどのように対応すればよいでしょうか?
大熊社労士:
 そうですね。方法としては振替休日を設定する方法と年次有給休暇の計画的付与を行う方法の2つがあると思います。
服部社長:
 年次有給休暇の計画的付与?それはどのようなものですか?
大熊社労士大熊社労士:
 そもそも年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければなりません。しかし、労使協定で一定の事項を協定することにより、付与日数のうち5日を除いた残りの日数について会社が取得する時季を指定することができるという制度です。つまり、例えば年次有給休暇の付与日数が10日の従業員に対しては5日、20日の従業員に対しては15日までを会社が指定した日に取得させることができるのです。
宮田部長:
 なるほど、そんな制度があるのですね。ということは今回の設備導入の日に一斉に年次有給休暇を取得してもらうことができるということですね。
大熊社労士:
 はい、そのとおりです。そういえば御社の就業規則には計画的付与を行う旨の規定はありましたよね?
宮田部長:
 えーっと、ありました。「第2項の規定にかかわらず、社員の過半数を代表する者との書面協定により、各社員の有する年次有給休暇のうち5日を超える日数について、予め時季を指定して与えることがある」というこの規定ですね。
計画的付与労使協定大熊社労士:
 はい、大丈夫ですね。それでは実際に年次有給休暇の計画的付与を行う場合には、労働者の過半数で組織する労働組合、過半数労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と、以下の事項について労使協定を締結することとなります。

  • 計画的付与の対象者(あるいは対象から除く者)
  • 対象となる年次有給休暇の日数
  • 計画的付与の具体的な方法
  • 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
  • 計画的付与日の変更

宮田部長:
 「対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い」というのはどういうことでしょうか?
大熊社労士:
 さすがですね。その点は実務上の大きなポイントです。計画的付与ができるのは最初にお話したとおり、年次有給休暇の付与日数のうち5日を除いた残りの日数ということになります。よって入社して期間が短く、年次有給休暇がまだ付与されていない従業員や残りが5日以下の従業員については計画的付与ができないのです。
宮田部長:
 その場合、どうしたら良いのですか?
大熊社労士:
 そうした従業員だけ出勤させるという手もありますが現実的ではないですよね。よって特別の有給休暇を付与したり、休業手当相当を支給するといった対応をすることが通常です。
服部社長服部社長:
 なるほど。その点は少し引っ掛かりますね。となると振替で対応するのが無難かも知れないですね。しかし、従業員によっては年次有給休暇の取得率が極端に低い場合があるので、こういった制度を活用し、ある程度取得させるということも有効なのではないかと思います。宮田部長、それでは今回の取り扱いに関して、計画的付与を行うことができない従業員のリストアップをお願いします。その結果を見て、早急に対応を判断しよう。
宮田部長:
 了解しました。今日の夕方までには出しておきます。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は年次有給休暇の計画的付与について取り上げました。この労使協定については以下でダウンロードすることができますので、是非ご利用ください。
「年次有給休暇の計画的付与に関する協定」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51076305.html

 なお、この協定については労働基準監督署に届け出る必要はありません。

[関連法規]
労働基準法 第39条(年次有給休暇)
6 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。


関連blog記事
2011年1月17日「パートタイマーにも年次有給休暇を与えなければならないのですか?」
https://roumu.com/archives/65445924.html
2011年1月10日「定年退職者の年次有給休暇の取扱いについて教えてください」
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2011年1月3日「当日の朝に申請された年次有給休暇は認めなければなりませんか?」
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2009年7月20日「年次有給休暇の出勤率はどのように計算すればよいのですか」
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2010年6月2日「[ワンポイント講座]労基署に届出が必要な労使協定と不要な労使協定」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51743934.html
2009年2月4日「[ワンポイント講座]年次有給休暇の計画的付与日は変更できるか」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51496014.html
2009年6月30日「[改正労基法](14)時間単位年休を計画的付与に組み込むことは可能か?」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51579708.html

(大津章敬)

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