確定拠出型で貢献度を反映できる退職金制度にはどのようなものがありますか?
ここ2週に亘り、服部社長に対し、貢献度反映型の退職金制度に関するレクチャーを行っている大熊。今回は貢献度反映型退職金制度の中でも確定拠出型で設計する場合の制度の選択肢について解説することとした。
大熊社労士:
前回は貢献度反映型退職金制度の選択肢として、別テーブル方式についてお話ししました。この別テーブルと前々回お話したポイント制はいずれも確定給付型、つまり退職時に実際に支給する退職金の支給額を規程で保証する制度となります。従来のわが国の退職金制度のほとんどはこの確定給付型であり、また従業員にとっては実際に支給される金額が見えることから、安心感のある制度であると言えます。しかし、確定給付型は同時に経営上のリスクが高い仕組みでもあるのです。
服部社長:
経営上のリスクですか?
大熊社労士:
そのとおりです。例えば前回お話した別テーブル方式の退職金制度を例に取りましょう。前回(2011年11月7日のブログ記事「ポイント制以外の貢献度反映型退職金制度にはどのようなものがありますか?」参照)、例に挙げたのは勤続40年でM2で退職する社員に12,000,000円の退職金を支給するというものでした。確定給付型はこのように実際の支給額が明示されるという大きなメリットがある一方で、規程によって明示した以上は、必ずそれを支給しなければならないということになります。退職金制度はそもそも恩恵的な給付でありますが、退職金規程などにより制度化した場合には労働基準法第11条における賃金と同様の法的扱いを受けるとされているのです。
服部社長:
つまり、会社の経営が非常に苦しいような場合であっても、約束した以上は必ず支給しなければならないということですね。
大熊社労士:
はい、そのとおりです。特に最近は企業経営の先行きが不透明であり、更には退職金原資の運用環境も低迷していることから、確定給付型退職金制度のリスクが高まっています。そこで注目されているのが確定拠出型の退職金制度なのです。確定拠出型とは、将来の退職金支給のためにいま「拠出」する金額を「確定(約束)」する制度のことを言います。
服部社長:
最近、確定拠出年金という言葉を耳にすることが多いですが、これもその一種ですか?
大熊社労士:
その通りです。具体的には確定拠出年金がもっとも一般的な制度の一つになります。それではまずは確定拠出年金を活用した貢献度反映型の退職金制度の構築についてお話しましょう。確定拠出年金は、会社が一定のルールに基づいて掛金を拠出し、従業員がそれを会社が提示した複数の金融商品に分散して運用することで、将来、それを退職金として受給できるという制度です。
服部社長:
それであれば聞いたことがありますね。従業員が自己責任で運用するという奴ですね。
大熊社労士:
そのとおりです。この制度を運用するにあたっては様々な掛金の設定方法がありますが、貢献度反映型で行くのであれば、前々回のポイント制と同様の制度設計を行えばよいのです。つまり、社内における貢献度を表す等級制度に基づき、以下のように毎月の拠出額(掛金)を設定するのです。
J1: 5,000円 J2: 7,000円
S1:10,000円 S2:12,000円
M1:15,000円 M2:20,000円
服部社長:
なるほど。ポイント制では将来、退職時に支給される退職金額(ポイント)を規程に明示しましたが、確定拠出年金ではその掛金月額を明示し、実際に拠出していくのですね。
大熊社労士:
その通りです。このようなルールにすることで、早く昇格し、会社に貢献した人材ほど掛金の元本合計が大きくなることから、退職金の支給額も大きくなるのです。実際には各社員の運用成果により支給額が異なりますが、仕組みとしては在職中の貢献度が退職金支給額に反映されることになる訳です。
服部社長:
そして、会社としては退職金規程でこの掛金しか保証していない訳ですから、将来の退職金の積立不足は発生しないということですね。確かにこの制度は経営の視点で見ると大きなメリットがあるように思いますね。
大熊社労士:
そうですね。やはり退職金制度は数十年という非常に長いスパンで考えなければならないものですので、安定的に運用できるということは大きなポイントになると思うのです。そのような発想で考えると、確定拠出型の制度は大きな選択肢になるのではないかと思います。もっともこの制度も、制度固有の課題がありますので、実際にはそうしたデメリットも含め、十分な検討が求められます。なお、中小企業の場合には確定拠出年金の代わりに中小企業退職金共済(中退共)を活用し、この確定拠出型の退職金制度を構築することも有力でしょう。
服部社長:
よく分かりました。それでは経営者団体の後輩経営者にはそのように説明しておきます。もっとも詳しい話は私ではできませんので、また追加質問を受けた場合には大熊さんにそのままご紹介しますので、対応をお願いしますね。
大熊社労士:
分かりました!いつもありがとうございます。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。3週に亘って貢献度反映型の退職金制度について取り上げました。近年、経営環境や雇用形態が大きく変容し、退職金制度も見直しが求められる時期になっているのではないかと思います。最近の退職金制度改革は今回ご紹介したような貢献度反映型の制度設計がほとんどとなっていますが、企業年金制度のバリエーションが増えたことにより、従来のポイント制一本槍から目的別に様々な制度を検討できる環境が整っています。今回は比較的オーソドックスな内容を取り上げましたが、実際にはキャッシュバランスプランなども有力な選択肢であり、こうした複数の制度の中から自社に最適な制度を導入することが重要な課題となっています。退職金制度は企業にとって大きな経営上の負担にもなっていることから、改めてゼロベースでの制度検討が求められているのではないでしょうか。
[関連法規]
労働基準法 第11条
この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
関連blog記事
2011年11月7日「ポイント制以外の貢献度反映型退職金制度にはどのようなものがありますか?」
https://roumu.com/archives/65524928.html
2011年10月31日「ポイント制退職金制度とはどのような制度なのですか?」
https://roumu.com/archives/65523453.html
2011年6月6日「退職金規程では、支払時期や懲戒解雇時の取扱いなども明確に規定する必要があります」
https://roumu.com/archives/65486885.html
2011年5月30日「退職金規程では、その適用範囲と勤続年数の計算方法を明確に規定しましょう」
https://roumu.com/archives/65486856.html
2011年5月23日「退職金は企業にとって中長期的なリスクであると認識する必要があります」
https://roumu.com/archives/65485100.html
2009年11月2日「退職金は請求後7日以内に支給しなければならないのですか?」
https://roumu.com/archives/65156149.html
参考リンク
大津章敬著「日本一わかりやすい退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539720732/roumucom-22
大津章敬著「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4539719599/roumucom-22
(大津章敬)
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