育児休業の前に長期欠勤があると雇用保険の育児休業給付はもらえなくなりませんか?

 服部印刷に到着した大熊を出迎えてくれたのは先日の訪問時に姿の見えなかった宮田部長だった。


宮田部長:
 こんにちは、大熊先生。先日は不在にしており、失礼しました。
大熊社労士大熊社労士:
 あ、宮田部長、こんにちは。宮田部長がいらっしゃらないと何だかとても寂しい感じがしてしまいましたよ。服部社長からハローワークに行っているとお聞きしたのですが、何か手続きでしたか?
宮田部長:
 はい、離職票を急ぎで欲しいというような申出が退職者からあり、いつも派遣社員にお願いをしているハローワークへの届出を自分で行ってきました。無事、本人にも渡すことができ、ホッとしました。それで同時に福島さんの賃金登録をしなくちゃ!と思い出しました。
大熊社労士:
 育児休業開始時の賃金登録ですよね。もう育児休業に入っていますので、確かにいまのタイミングで行っておいてよいかも知れませんね。
宮田部長:
 ん?大熊先生の表現ですと、いまのタイミングじゃなくてもよいのですか?
大熊社労士:
 はい、実は育児休業給付は原則、育児休業を取得している従業員本人自身がハローワークで申請することになっていますが、事業主が代行することもできるとされています。そのため先ほどのような表現をしたのです。この場合には、賃金登録と育児休業給付の初回の申請を同時にできることになっていますよ。
宮田部長:
 なるほど、そうすると事業主にとって従業員とのやり取りやハローワークに出向く手間が減りますもんね。ただ、今回は私にとって初めてのことですし、なんだか複雑になりそうなので、早めにやっておきたいと思っているのです。
大熊社労士:
 複雑?
宮田部長宮田部長:
 はい。そもそも福島さんは長期欠勤になっているので、もしかしたら育児休業給付がもらえないのではないか?と心配しているのです。先日、届けた離職票を見たら、出勤日数等を12ヶ月分記載するじゃないですか。これって確か1ヶ月に11日以上、出勤した日がなくてはならないのですよね。福島さんの長期欠勤は大丈夫かな?と心配になってしまって。
大熊社労士:
 なるほど、確かに心配に思うかも知れませんね。でも、大丈夫だと思いますよ。確かに育児休業給付の受給資格を得るためには、育児休業開始前2年間に賃金支払基礎日数が11日以上ある月が12ヶ月以上必要です。そしてこの中にいわゆる失業手当を受けていたような場合は、その失業手当を受けるために計算された期間以降の期間で確認することになっています。
宮田部長:
 なるほど、2年間なのですね。それであれば福島さんは大丈夫かな、長期欠勤になる前までは、当然、まじめに休むことなく出勤していましたのでね。
大熊社労士:
 そうですね。ちなみに、その出勤した日(出勤日数)は厳密には「賃金支払基礎日数」というものです。ちょっと周りくどい言い方になっていますが、確か長期欠勤の最初の方は年次有給休暇を取っていませんでしたか?この年次有給休暇というのは賃金が払われていることになるので、出勤日数と同様にカウントすることになります。
宮田部長:
 なるほど。それであれば、11日は楽勝にありそうです。ちょっと安心しました。
大熊社労士:
 育児休業給付は休業している従業員にとって大きな金額になるので、確かにもらえる・もらえないの差は想像以上に大きく感じますよね。更にということで、ひとつ補足しておきますね。今回は基本の2年間に11日以上という条件を満たすことができると思いますが、育児休業開始日前2年間に病気になったり、ケガをしたりして、30日以上の欠勤(賃金が支払われない日)がある場合には、その欠勤の日数を2年間に加えることができます。つまり、2年間に長期欠勤日数分を加えることができます。ちなみに、その上限は4年間となっています。
宮田部長:
 なるほど。よっぽど勤怠が悪い人でない限りは対応できそうな感じですね。
大熊社労士:
 そうですね。ひどいケガをしたような人でも多くは対応ができます。対応できないとすると、新入社員で雇用保険の加入期間が短い場合や、パートさんで出勤日数にばらつきがあるような場合ですかね。
宮田部長:
 なるほど。育児休業を取得=育児休業給付なんていう発想になっていたので、ちょっとそこは例外があるかもしれないと頭に入れておきますね。
大熊社労士:
 そうですね。お願いします。
服部社長服部社長:
 ところで、宮田部長。その育児休業給付という内容は理解できているのかね?いや、多分これまでも大熊さんに聞いているので私も概要は理解していると思うが、この機会にしっかり聞いておいた方がよいのではないかと思ってね。
宮田部長:
 やはり社長にはバレちゃいましたか(笑)。先日、福島さんが遊びに来たときに「育児休業給付の延長」なんて言葉を使っていたので、あの後、福島さんから説明を聞いたんですよ。概要は理解できてやるべきことも分かったのですが、少し心配な点があります。大熊先生、また今度、教えてもらえませんか?
大熊社労士:
 はい、もちろんです。ではそれまでに、賃金登録の用紙を記入
しておいてくださいね!
宮田部長:
 あわわ、宿題が出てしまった(苦笑)。頑張っておきます。
服部社長:
 大熊さん、引き続きよろしくお願いします。

>>>to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。今日は育児休業をする際の賃金登録について説明しました。病気やケガで賃金支払基礎日数をカウントする期間を2年以上伸ばすときには通常、欠勤をしていたことを証明する資料を添付することになります。一般的には傷病手当金の申請書の写し(医師の労務不能が証明されているもの)を添付することが多いようです。


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2013年2月11日「育児休業が延長できる「保育所に入所できない場合」の保育所の定義を教えてください」
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2013年1月28日「育児休業はいつまで取得できるのですか?」
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2013年1月14日「出産のために会社を休んだときにもらえる手当について教えてください」
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2012年12月3日「妊娠した従業員の体調不良にはどう対応すればいいですか?」
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2012年10月15日「協会けんぽから受けることのできる出産にかかる給付について教えてください」
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参考リンク
インターネットハローワーク「育児休業給付の内容及び支給申請手続について」
https://www.hellowork.go.jp/dbps_data/_material_/localhost/doc/ikuji_kyufu.pdf

(宮武貴美)

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