契約社員でも育児休業が取れるのですか?

 服部印刷に訪問する前日、服部社長から電話があり、「育児休業のことについて相談したい」と言われていた大熊。到着すると、服部社長が待っていた。


服部社長:
 大熊さん、こんにちは。いつもお世話になっています。
大熊社労士:
 こんにちは。暑い日が続いていますね。さて、今日は育児休業のことでご相談があると伺っていましたが、どのようなことですか?
服部社長服部社長:
 連絡したのは、知り合いの会社のことなんですけどね、契約社員が妊娠をして、育児休業を取りたいと申し出てきたようなんです。福島さんが育児休業を取っていたので、以前、その話をしたことを覚えていたんでしょうね。
大熊社労士:
 なるほど、そういうことだったのですね。
服部社長:
 もちろん、子どもが増えるということは日本全体にとって良いことではあるのですが、契約社員となるとどうなんだろう、というのが知り合いの戸惑いのようです。
大熊社労士:
 そうですね、契約社員となると、基本的にはその仕事のために来てもらっているということになるので、期間途中で休業に入り、出て来れなくなると会社としては困りますよね。ですので法律れも、育児休業を取得できる人について一定の要件を設けています。
宮田部長:
 一定の要件?
大熊社労士:
 はい、契約社員・・・つまり有期雇用の場合であっても、長く契約されているのであれば、そして、育児休業後も長く雇用が見込まれるのであれば、育児休業は取らせてあげてくださいねというスタンスです。
服部社長:
 「長く」の長さがポイントになりそうですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そうですね。具体的な内容に踏み込みましょう。契約社員が育児休業を取れるといのうは、申出の時点で、以下のからまですべてを満たすこととされています。長さとしては、1年、1歳、2歳が出てきます。
同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること
子の1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込まれること
子の2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと
 まず、についてですが、入社して半年で育児休業を取りたいという申し出があったとしても、それは会社として断ることができます。
宮田部長:
 面接のときには妊娠していることについて気づかず、入社していたら妊娠が発覚!というケースとかありそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。そして、については、育児休業は取ったけれど、復帰するときに・・・復帰というのは子が1歳になるときが多いかと思いますが・・・既に契約期間が満了しているというのであれば、取らせなくてもよいことになります。
服部社長:
 なるほど長期雇用を前提にしているからという理解ですね。
大熊社労士:
 そうですね、育児休業というのは、長期雇用の中で一定の期間、育児のために休むことも必要だよねということで認められているものですので、復帰時に契約がないような人までをも含める必要はないということになります。そして、もう一つの要件もそれを示しています。
宮田部長:
 「子の2歳の誕生日の前々日までに、労働契約の期間が満了しており、かつ、契約が更新されないことが明らかでないこと」というものですね。
大熊社労士:
 そうです。育児休業を取って、復帰したとしても復帰後の勤務期間が短いのであれば、やはり育児休業を取らせなくてもよいということになります。
服部社長:
 なるほど。特にが重要になりそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。ちなみに厚生労働省ではこの判断をフローチャートにまとめており、このリーフレットの中にありますので、ご確認くださいね。
宮田部長宮田部長:
 大熊先生、ふと気になったのですが、契約社員と結ぶ雇用契約書等には、「契約を更新する場合がある」というような表現をするじゃないですか。こういう場合には、はどのように判断するのですか?
大熊社労士:
 とても良い質問ですね!実務的に微妙な判断にはなりますが、厚生労働省から発行されているパンフレットで確認すると、「契約を更新する場合がある」というのは更新の可能性の明示があると判断されており、申出時点の契約と同じ長さでもう一度契約が更新されたならば、その更新後の労働契約の期間の末日が子の1歳の誕生日以後になるのであれば、の要件を満たすということになっています。
服部社長:
 大熊さんがおっしゃるように確かに微妙な判断になりそうですね。
大熊社労士:
 そうですね。特に近年はご存じのとおり、契約社員も含めた非正規労働者の増加が著しく、またその大部分が契約の更新がありうる前提で働いているので、育児休業が取れる・取れないというトラブルが増加しています。
服部社長:
 それに合わせて少子化の解消や女性労働力の活用となると、国としては契約社員であっても育児休業を取らせる方向に判断していきそうですね。
大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。よほど要件に明確に合致していない場合でなければ取得させる必要があるという状況になりがちです。
服部社長:
 会社としてはそのようなリスクを持っているということを十分に理解しておく必要があるのでしょうね。
大熊社労士:
 そうですね。あ、「取得させる必要がある」というような表現をしてきましたし、服部社長も「リスク」というような表現をされていますが、子どもがたくさん生まれてくるのは、社長も私も大賛成ですよね。ただ、企業経営という視点から立つと厳しいので、どうしてもこういう表現になってしまいますね。
服部社長:
 そうですね。でも、少子化の進行を少しでも食い止め、育児を本当に支援するのであれば、契約社員の育児休業も含めて支援をしていく必要がある。そのためには、個別の人に依存した体制から、仕事を良い意味で移せるような見える化が必要なのでしょうね。
大熊社労士:
 おっしゃる通りだと思います。お知り合いの方にもよろしくお伝えください。

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to be continued

[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス
 こんにちは、大熊です。有期契約労働者の育児休業については、特にこのような要件に合致しなくても、とることができるような仕組みにしている会社もあるようです。この場合、雇用保険の取扱いで注意すべき点がありますので、これはまたの機会に説明することにしましょう。


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2013年5月20日「産休期間中の社会保険料免除は2014年4月施行となりました」
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2013年5月13日「育児休業中には住民税の徴収が猶予されるのですか?」
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2013年5月6日「育児休業給付が支給されている期間は失業手当の勤続年数に入りますか?」
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2013年4月15日「育児休業中の社会保険料について確認させてください」
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参考リンク
厚生労働省「有期契約労働者の育児休業取得推進に向けて」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_h23_3.pdf
厚生労働省「育児休業や介護休業をすることができる期間雇用者について(平成24年7月)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/dl/tp0701-1x.pdf

(宮武貴美)

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