[ワンポイント講座]半日年休を取得し、午後から勤務した場合の時間外労働の取扱い

 年次有給休暇の取得において、半日単位の取得を認めている企業は比較的多くありますが、半日有給を取得した際の実務上の問題として、時間外労働の取扱があります。そこで今回は、半日年休を取得し、午後から勤務した場合の時間外労働の取扱いについて解説しましょう。


 そもそも半日単位の年次有給休暇の取得は、法律として存在するものではありません。半日年休は「法第39条第1項に継続又は分割した10労働日となっているが、半日ずつ請求することができるか」という問いに対して、「法第39条に規定する年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない」(昭和24年7月7日 基収第1428号、昭和63年3月14日 基発第150号・婦発第47号)と回答していることから、義務はないが半日単位で与えることは差し支えないと理解されています。


 それでは半日年休を認めている企業で、その日に残業をした場合、賃金の支払いはどのように取り扱えばよいのでしょうか。具体的に、始業時刻が9時、終業時刻18時(うち1時間休憩)の会社で、半日年休を取得して14時に出勤したとします。終業時刻の18時を過ぎても業務を続ける必要があり、20時まで仕事をしたとすると、18時から20時までの2時間については、割増賃金の支払が必要か否かが問題となります。これについては、直接解説した通達はありませんが、関連する通達としては次のようなものが出されています。
「法第32条または第40条に定める労働時間は実労働時間をいうものであり、時間外労働について法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金の支払を要するのは、右の実労働時間を超えて労働させる場合に限るものである。従って、例えば労働者が遅刻をした場合その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させる場合には、1日の実労働時間を通算して法第32条又は第40条の労働時間を超えないときは、法第36条第1項に基づく協定及び法第37条に基づく割増賃金支払の必要はない」(昭和29年12月1日 基収第6143号、昭和63年3月14日 基発第150号・婦発第47号、平成11年3月31日 基発第168号)


 この通達は、労働基準法に定められている労働時間の規制については、実労働時間主義をとっていることを明示しており、実際の労働時間が8時間を超えなければ割増賃金を支払う必要はないということになります。そのため、今回の半日年休の場合については、終業時刻を過ぎて仕事をしたとしても、その日については実際の労働時間が8時間を超えていないことから割増賃金を支払わなくてもよいという結論になります。なお、割増賃金の支払が不要といっても、この場合、2時間については割増率を乗じる前の時間単価に2時間を乗じた賃金の支払いが必要となります。


[参照法令]
労働基準法 第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。


[関連通達]
昭和63年3月14日 基発150号
 法第39条に規定する年次有給休暇は、1労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。



関連blog記事
2007年1月24日「半日年次有給休暇制度に関する協定」
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参考リンク
大阪労働局「(第39条)年次有給休暇」
http://www.osaka-rodo.go.jp/joken/rokiho/kyuka/rokiho39.html


(福間みゆき)


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