[ワンポイント講座]出向先で役員となった従業員の労災保険・雇用保険の取扱い

 2009年2月18日のブログ記事「社宅を貸与した際の労働保険料の取扱い」では、社宅を従業員に貸与する際の労働保険料の取扱いを取り上げました。今回はこれに関連し、親会社で一般の労働者の者が、出向先で役員となった場合の労災保険・雇用保険の取扱いについてお話したいと思います。


 そもそも出向とは、出向元である自己の事業所に在籍したまま、出向先となる他の事業所で業務に従事することを指します。したがって、労働者は出向元と出向先の双方で雇用関係が成立し、出向元と出向先の協定等によってそれぞれの責任の内容が決定されます。この前提を押さえた上で、親会社に在籍して給与が支給されている労働者が、子会社に役員として出向した場合の労災保険・雇用保険の取扱いについて考えてみましょう。
労災保険
 通常、出向労働者は出向先の指揮命令下で業務に従事しているため、出向先の労災保険の被保険者となります。しかし今回のケースでは出向先で役員となっているため、被保険者になることができません。ただし、このような場合であっても出向先が中小企業に該当すれば、特別加入をすることにより保険給付を受けることができます。この際の保険料は、一般の労働者とは異なり、保険料算定基礎額に出向先事業所の業種に応じた保険料率を乗じて計算します。なお、この保険料算定基礎額は、特別加入申請をする際の給付基礎日額(3,500円~20,000円)に基づき決定されます。


雇用保険
 出向労働者は、その者が生計を維持するために必要な主たる賃金を受ける事業所で雇用保険の被保険者となります。したがって、今回のケースでは出向元で主たる賃金を受けているため、出向元の被保険者資格が継続されることになります。仮に出向先で主たる賃金を受けている場合には、役員として出向しているため、被保険者資格を継続することはできず、喪失手続きを行わなくてはなりません。


 今回のケースで特に注意すべきなのは、出向先事業所の規模や賃金の支払われ方により、被保険者資格の有無が変わる可能性があることです。このような事実が生じる場合には、出向労働者に対して事前に説明を行うなどの対応が求められます。


[関連通達]
出向労働者に対する労災保険法の適用について(昭和35年11月2日基発第932号)
 ある事業(以下「出向元事業」という。)に雇用される労働者(以下「出向労働者」という。)が、その雇用関係を存続したまま、事業主の命により、他の事業(以下「出向先事業」とい う。)の業務に従事する場合における労災保険法(以下「労災保険法」という。)の適用は、左記のとおりとするので、関係事業主に対し、この旨指導されたい。
一 出向労働者に係る保険関係について
 出向労働者に係る保険関係が、出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的及び出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行った契約ならびに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること。
 その場合において、出向労働者が、出向先事業の組織に組み入れられ、出向先事業場の他の労働者と同様の立場(ただし、身分関係及び賃金関係を除く。)で、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事している場合には、たとえ、当該出向労働者が、出向元事業主と出向先事業主と行った契約等により、出向元事業主から賃金名目の金銭給付を受けている場合であっても、出向先事業主が、当該金銭給付を出向先事業の支払う賃金として、徴収法第一一条第二項に規定する事業の賃金総額に含め、保険料を納付する旨を申し出た場合には当該金銭給付を出向先事業から受ける賃金とみなし、当該出向労働者を出向先事業に係る保険関係によるものとして取り扱うこと。
二 上記一の後段に係る事務取扱
(1) 保険料の納付について
 出向元事業主が、出向先事業主との契約等により、出向労働者に対して支払う賃金名目の金銭給付を、出向先事業に関する徴収法第一一条第二項に規定する賃金総額に含めたうえ、保険料を算定し、納付させること。
(2) 平均賃金の算定について
 出向労働者につき事業上災害が発生し、保険給付のため平均賃金を算定する必要が生じたときは、出向元事業主が、出向先事業主との契約等により、出向労働者に対して支払う賃金名目の金銭給付を、出向先事業が支払った賃金とみなし、出向先事業が出向労働者に対し支払った賃金と合算したうえ、保険給付の基礎となる平均賃金を算定すること。
 この場合には、出向元事業主の上記金銭支払明細書(ただし、上記平均賃金を算定するための所要期間内に支払われたものに限る。)について出向先事業主の承認をうけ、これを補償費請求書に添付して提出するよう受給権者を指導すること。
 なお、上記平均賃金の算定が、労働基準法第一二条第二項の規定によるべき場合で、出向元事業の賃金締切日と出向先事業の賃金締切日とが相違するときは、それぞれに係る部分について各別に計算し、両者の合算額を、保険給付の基礎となる平均賃金とすること。
(3) 休業補償費のスライドについて
 労災保険法第一二条〔現行=第一四条〕第四項の規定による労働基準法第七六条第二項の規定の適用については「出向先事業場における同種の労働者」を「同一の事業場における同種の労働者」として取り扱うこと。従ってたとえ、出向労働者が災害後出向元事業に復帰している場合であっても、同様であること。
(4) 保険料率のメリットについて
 労災保険法第二七条〔徴収法一二条第三項参照〕の規定の適用については、出向労働者に対する保険給付を、出向先事業に対する保険給付として取り扱うこと。
三 稟伺
 上記一の出向労働者の労働関係の所在の判断等について、疑義ある場合には、その具体的事情を具し、本省労働基準局長あて稟伺すること。



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参考リンク
神奈川労働局「労災保険の特別加入制度について」
http://www.kana-rou.go.jp/users/kikaku/tkkanyu1.htm


(佐藤浩子)


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