母性健康管理の措置とはどういうことをすればよいのですか?

 産前産後休業から育児休業まで、かなり長い時間を使って大熊社労士に質問をしてきた宮田部長。そろそろ終わりと思っていたところ、最後に妊産婦に関する注意すべき内容もあることを知ったため、再び身を乗り出して聞き始めた。



宮田部長:
 産前産後休業や育児休業の基本的な取り扱いについてはよく分かりました。出産の6週間前から子どもが1歳を迎えるまでの間は注意しておかなければならないのですね。
大熊社労士:
 いえいえ、出産の6週間前から注意すれば良いのではありませんよ。それ以前の期間であっても、会社として心得ておかなければならないことがあります。
宮田部長宮田部長:
 えっ?!まだ他に会社としてやらなければならないことがあるのですか?もちろん、妊婦さんですから、妊娠初期のつわりがひどいときには体調に気を配っていなければいけないのは私でも理解しているつもりですが。
大熊社労士:
 はい、労働基準法でにおける妊産婦とは、妊娠中および産後1年を経過しない女性のことを言いますので、産前産後休業期間中の女性だけに配慮すれば十分という訳ではありません。この点をまず注意してください。
宮田部長:
 そうなんですね。では会社として、具体的にどのようなことに注意しなければならないのでしょうか?
大熊社労士:
 妊産婦から請求があった場合は、例え36協定(時間外労働・休日労働に関する協定)を結んでいても、時間外労働や深夜労働、休日労働をさせることは禁止されています。加えて、変形労働時間制を採用していたとしても1週40時間、1日8時間を超えて労働させてはいけないことになっています。
宮田部長:
 分かりました、これも請求があったときですね。労働時間以外に配慮しなければならないことはありますか?
大熊社労士:
 男女雇用均等法で、事業主は厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性社員が母子保健法の規定による保健指導または健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならないという義務を課しています。
宮田部長:
 保健指導や健康診査に必要な時間とは具体的にはどのようなものが当たるのでしょうか?
大熊社労士:
 例えば妊産婦が病院などで定期的に健診を受けますね。その健診を受けるために必要な通院時間を確保できるように休暇等を与えなければなりません。なお、妊娠週数等に応じて健診を受ける頻度が異なります。
産前の場合
 妊娠23週まで……………… 4週に1回
 妊娠24週から35週まで…… 2週に1回
 妊娠36週から出産まで…… 1週に1回
 ただし、医師または助産婦(以下「医師等」という)がこれと異なる指示をしたときは、その指示により必要な時間を確保することができるようにすること。
産後(1年以内)の場合
 医師等の指示により、必要な時間を確保することができるようにすること。
宮田部長:
 なるほど、妊産婦が健診を受けることは、胎児にとってもお母さんにとっても非常に大切なことですからね。
大熊社労士大熊社労士:
 また事業主は、妊産婦が医師等から何らかの指導を受けた場合、その指導事項を守ることができるようにするための勤務の軽減、勤務時間の短縮、休業等の適切な措置を講じることが事業主に義務づけられています。また関連して指針も出されており、妊娠中の通勤緩和、妊娠中の休憩、妊娠中または出産後の症状等への対応について母性の健康管理上の観点から一定の措置を事業主に求めています。
宮田部長:
 そうすると、医師が妊産婦に指導している内容を知る必要がありますね。診断書をその都度求めればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、この点に関して厚生労働省は「母性健康管理指導事項連絡カード」の活用を勧めています。これは、主治医等が行った指導事項の内容を、仕事を持つ妊産婦から事業主へ明確に伝えるのに役立つカードです。ここに見本がありますので、お渡ししておきます。
関連blog記事:2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html
宮田部長:
 ありがとうございます
大熊社労士:
 また、健診で異常がなくても、その後に妊産婦の体調に異変が出てきた場合は、主治医とよく相談した方が良いでしょう。
宮田部長:
 産前産後休業から育児休業、そして妊産婦に関してかなり時間を使って説明していただき、ありがとうございました。かなりあやふやな知識であったことが、よくわかりました。できるだけ忘れないようにします。
大熊社労士:
 法令などはしょっちゅう変りますから、遠慮しないでどんどん聞いてくださいね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は妊産婦に関する労働基準法や男女雇用機会均等法の取り扱いについて取り上げてみました。機会均等法により、母子保健法の規定による保健指導または健康診査を受けるために通院に必要な時間について、妊産婦から申出があった場合、事業主はそれに応じなければなりません。この点について就業規則に規定がなされていない会社が多いようですが、休暇の項目に追加しておくようにしてください。この扱いは無給でも構いませんが、年次有給休暇がある社員の場合には有休を利用することが多いでしょう。いずれにしても母性の健康管理の観点から必要な措置を講じなければなりませんので、妊娠が分かった時点でできるだけ会社としても情報を入手しておく工夫が必要です。


[関連条文]
労働基準法 第64条の3(危険有害業務の就業制限)
 使用者は、妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(以下「妊産婦」という。)を、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務その他妊産婦の妊娠、出産、哺ほ育等に有害な業務に就かせてはならない。


労働基準法 第66条
 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第32条の3第1項、第32条の4第1項及び第32条の5第1項の規定にかかわらず、1週間について第32条第1項の労働時間、1日について同条第2項の労働時間を超えて労働させてはならない。
2 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、第33条第1項及び第3項並びに第36条第1項の規定にかかわらず、時間外労働をさせてはならず、又は休日に労働させてはならない。
3 使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。


雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第12条(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)
 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。


雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律 第13条
 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。



関連blog記事
2007年9月24日「育児休業期間中の社会保険の取り扱いについて教えてください」
https://roumu.com/archives/64659588.html
2007年9月17日「育児休業制度の内容と注意点を教えてください」
https://roumu.com/archives/64651720.html
2007年9月10日「医療機関に支払う分娩費が少なくなるのですか?」
https://roumu.com/archives/64642540.html
2007年9月03日「出産に関する健康保険の給付について教えてください」
https://roumu.com/archives/64635674.html
2007年8月27日「産前産後休暇は社員からの請求が必要なのですか?」
https://roumu.com/archives/64625615.html
2007年8月9日「母性健康管理指導事項連絡カード」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54764218.html


参考リンク
厚生労働省「妊娠中及び出産後の女性労働者が保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/20000401-30-3.htm
厚生労働省「母性健康管理指導事項連絡カードの活用について」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/josei/hourei/20000401-25-1.htm
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=1332


(鷹取敏昭)


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