海外勤務者への給与支給に関する所得税の取扱い

 最近、社員の海外派遣に関するご質問を受けることが多くなってきました。これまでも海外勤務者の社会保険について何度か取り上げてきましたが、今回から数回、海外勤務者の税務の取扱いについて考えていきたいと思います。



[質問]
 中国に派遣する社員についての所得税の取扱いについて質問があります。この社員は、3年間の予定で中国に派遣され、非居住者に該当します。所得税に関して、日本の他の社員とは異なる取扱いをしなければならないと聞きましたので、詳しく教えてもらえませんか。条件は以下のようになっています。
 出国日:8月9日 給与締日:8月15日 給与支払日:8月25日
 7月16日から8月15日分の給与は、課税支給が300,000円、非課税支給 3,000円


[回答]
 8月25日に支払われる給与から所得税を控除することは不要です。


 この社員については、中国で職業を有し、継続して1年以上居住することになるため、非居住者になります。この非居住者が受け取る給与には、勤務地の所在する国の税法が適用されるため、例え、その給与が日本にある本社から支払われていても勤務地が外国ならば、日本の所得税法は適用されないことになります。


 非居住者の所得税については、以上の通りですが、今回の質問のケースでは、給与計算期間が7月16日から8月15日であり、その中に居住者(7月16日から8月9日)と非居住者(8月10日から8月15日)の期間が並存します。この場合は、居住者に対応する期間について非居住者の国内源泉所得となり、本来であれば20パーセントの源泉徴収が必要となります。しかしながら、例外として、非居住者になった日以後支給期の到来する給与のうち、この計算期間が1ヶ月以下であるものについては、その給与の全額がその者の国内において行った勤務に対応するものである場合を除き、その総額を国内源泉所得に該当しないものとして取り扱って差し支えないことになっています。今回のケースではこの例外が適用されることにより、8月25日に支払われる給与には日本での所得税はかからないことになります。


[まとめ]
 このケースは一般社員の場合になりますが、これとは別に日本の法人の役員として海外勤務を行うことに対する給与には、日本の所得税がかかり、20パーセントの税率で源泉徴収が必要ですので、注意が必要です。それでは次回は、賞与について取り上げることにしましょう。



関連blog記事
2007年7月22日「届出漏れに注意!海外派遣社員の介護保険適用除外手続」
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2007年7月20日「海外で治療を受けた場合の健康保険の申請方法」
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2007年7月13日「海外派遣者の社会保険・雇用保険・労災保険の取り扱い」
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2007年7月10日「社員に海外出張させる場合の労災適用」
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参考リンク
国税庁 タックスアンサー「居住者と非居住者の区分」
http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2875.htm
国税庁 タックスアンサー「海外に転勤した人の源泉徴収」
http://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2517.htm
国税庁 質疑応答事例「給与の計算期間の中途で非居住者となった者に支給する超過勤務手当(基本給と計算期間が異なる場合)」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/06/10.htm


(宮武貴美)


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