不機嫌な職場

 講談社から出版されている「不機嫌な職場」の反響が高いという。互いに協力し合えないギスギスした職場になってしまった原因を分析し、その解決策を提言した好著である。いま日本中の、特にホワイトカラーの現場でこの現象が起きているのは事実だろう。


 パソコンが一人1台割り当てられてネット化が普及したことで、孤立した仕事の進めかた=筆者は「孤職」と呼んでいる(上記書籍の筆者は「個職」としていた)が更に進んだようだ。いまと10年前の職場の風景でもっとも異なっているのは、全員がパソコンと向き合って黙々と仕事をしていることだろう。パソコンとネットは確かに仕事に劇的な変化をもたらした。しかしそれと並行して仕事が個別化・孤立化し、他者との協働で要求されるコミュニケーション能力が減退した。いま、この反省からか様々な協調性復活のしくみやコミュニケーション研修が流行している。人事評価においても、今更ながらではあるが、人事評価者研修やフィードバック面接、評価基準の事前告知、苦情処理制度などが多くの企業で再整備されつつある。これはこれで好ましい方向ではあるが、一つ気になることがある。


 それは、企業が従業員のメンテナンスに相当な時間と労力を掛けなくてはならない時代になったということである。法的にもメンタルヘルスと時短に代表される安全・健康配慮義務、ハラスメント問題、個別労使紛争、会社の様々な局面での説明責任等々、内向きに使わなければならないエネルギーが増大している。確かにエンプロイー・サティスファクション(従業員満足度)の向上は良好な経営に資するものであるが、ややもすると働く者の甘え(成長を阻害する要因という意味で)が出てくるのではないだろうか。例えば、明確な育成計画もなく単に増やしただけの研修は、「勉強になりました」という感想は出るが、これはかえって自ら工夫して学ぶ(真似る)能力の成長を阻害していないだろうか。また、手厚い福利厚生や従業員サービスは「やってもらってあたり前」という勘違いを招いていないだろうか。


 バブル崩壊当時、従業員には「雇われる能力(エンプロイヤビリティ)」が問われた。しかしいまは逆に企業には「勤めてもらえる能力(エンプロイメンタビリティ)」が問われている。どちらも違和感があるのだが、不易なのは、経営者の意思の伝達と共有、従業員の自助努力を支援する人材育成の思想とプラン、衛生要因(やる気を殺ぐ要因)を徹底して排除する環境、の3つなのだと思う。おそらく永年に亘り強みを発揮している企業は、流行に流されず、こういった確固とした人材観を持っているのだろう。



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参考リンク
amazon「不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062879263/roumucom-22


(小山邦彦)


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