報酬差をつけるのであれば説明は不可欠

 賞与の時期になった。通常は人事評価を実施して賞与に差をつけ、社員のモチベーションを上げることを試みる。しかしここで、「差をつけ」と「社員のモチベーションを上げる」との関連を考えてみたい。


 単純に、報酬で差をつければヤル気が出るなどということは、いまや誰も信じていないだろう。しかしダウンしたモチベーションの改善のために報酬制度が一役買うことは確かである。まず、やってもやらなくても同じだということが何らかの加減で発覚すると、やったと思っている人は損した気分になってやらなくなる、という悲しい現象が起こることがある(本来はそのような比較で一喜一憂するものではないと思うが…)。やらなくならないまでも、少なくとも精神的に面白くない。これは衛生要因(ヤル気を殺ぐ要因)の一つであるが、放置すると本人はもとより職場環境に微妙に影響が出てくるため、やはり企業としてはある程度は解消を図らなくてはならない。


 その解消の手段として「報酬に差がつく」ことはそれなりの効果があるだろう。但しこの場合、キチンと差がついたのかどうか、やった自分の報酬が確実に加算されたかどうかが明確に判るようになっていなければ何の効果もない。しかし、この「明確に判ってもらう」対策を企業が打っているかどうかは実は怪しいのである。上司が「出来が悪いので減らしてやった」と溜飲を下げる、もしくは「余計に出してやったぞ」と自己満足するだけで終えてしまい、本人にキチンとフィードバックをしていないことが多いではないだろうか。


 評価のよい社員には、「プラスしておいたからな」と恩着せがましい言葉をかけるだけで理由の説明はない。評価の悪い社員に対しては説明が厄介なので何も言わずに明細書だけ渡す。本人は評価がどうで、結果としてマイナスであったということすら判らず、当然、何の認識も改善もしない。たまたま同期の誰かと比較する機会があると自分が低いことが判明し、単に不満だけを持つ。評価の悪い社員に説明をするのはできれば避けたいと思う上司の気持ちは理解できるが、それでは企業と人の進歩がない。


 このやりづらい説明をするにはコツがある。それは、人」ではなく「行動」を問題として採り上げるということである。つまり、主語を「お前は」ではなく、「お前がとったこの行動は」とするのである。この主語の切り替えは、部下に対してのみならず上司自身も課題を客観視できる効果がある。少々慣れが必要ではあるが、これができるようになれば上司の力量は確実にアップする。



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参考リンク
8月5日セミナー「名ばかり管理職問題で企業に求められる実務対応と雇用環境変化に適応する人事制度」(名古屋)
https://www.roumu.com/seminar/seminar20080805.html
※第一部の講師を小山が担当します。


(小山邦彦)


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