[ワンポイント講座]出向している従業員を懲戒処分する際の留意点

 今日は水曜日恒例のワンポイント講座をお届けします。今回は、従業員が出向先で問題行動を起こした際の懲戒処分について取り上げてみましょう。


 懲戒処分の法的な根拠については、就業規則や労働契約等の中で労使間において企業秩序違反があったときは懲戒処分を受けてもさしつかえない旨の合意があったとする「契約説」と、団体あるところに秩序ありの原則に基づいて秩序維持に必要な懲戒権は経営権に由来する権限であるとする「固有権説」の2つの説があります。判例はこのいずれか、または両方を根拠にして会社に懲戒処分の権限があることが認められていますが、そもそも会社が従業員に対して懲戒処分を行うためには、就業規則に根拠となる条文を定めておくことが必要になります。


 本日のテーマは在籍出向している従業員が、出向先で問題行動を起こした際、出向先、出向元のどちらで懲戒処分を検討すれば良いかという問題ですが、在籍出向の場合には出向元と出向先の両方で雇用契約が成立しているため、どちらの就業規則が適用されるのかが問題となります。一般的には、出向先で労務の提供が行われることから、始業・終業時刻や休日などのルール、服務規律などについては出向先の就業規則が適用され、一方、出向者の身分は出向元にあることから、退職や解雇などの雇用に関することは出向元の就業規則が適用されることになります。そのため、出向者が出向先において問題を起こした場合には、まず出向先で服務規律違反として懲戒処分を検討することになります。ただし、この問題行動が懲戒解雇に該当するような場合については、先に述べたとおり出向先でその従業員を解雇とすることができないため、懲戒処分として懲戒解雇を行うことができない点に注意が必要です。この場合の流れとしては、出向の解除を行い、出向者を出向元に戻した上で懲戒解雇を行うことになります。


 また、就業規則の中に懲戒の手続きを定めていることがありますが、実際に懲戒を行う際にはこの手続きに従って進めることが重要です。例えば懲罰委員会の審議を経ることになっている場合で、もしもこれを経ずに懲戒処分を行ってしまうと手続きにおいて重大な瑕疵があったとされ、その処分が無効になる可能性があります。実際に、過去の裁判例(昭和47年7月12日大阪地裁決定、大栄運輸事件)では、解雇協議約款の定めがあるにも関わらずそれを守らなかったために手続き上の違反があったとして、懲戒解雇が無効とされています。そのため、懲戒の適正手続きを経たことが分かるように記録を残しておくことが望まれます。



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(福間みゆき)


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