深刻な水準にある労働者派遣活用企業の派遣法関連知識の低さ

労働者派遣活用企業の派遣法関連知識の低さ 労働者派遣については雇用危機以降、規制強化の流れが強まっており、最近では2010年6月5日のブログ記事「春先に実施された専門26業務の違法派遣調査の指導監督件数は891件」でも取り上げたとおり、専門26業務の適正運用に関する労働局による調査が進められています。また労働者派遣法の改正議論も継続して行われている状態ですが、そんな中、厚生労働省より平成21年度「派遣先における派遣労働者の雇用管理の具体的応用事例集の作成事業」の報告書が公表されました。


 その中で、派遣労働者を活用している派遣先企業の管理者に対し、派遣労働に関する法的知識の有無を聞いた設問の回答結果は、その法的知識のあまりの低さが明らかになったという点で、驚くべき内容となっています。以下はその法的知識を「知っている」と回答された割合ですが、まずは実際の結果をご覧頂きましょう。
【29.7%】一般事務など「自由化業務」の場合、派遣スタッフの受入期の制限は、派遣スタッフ一人当たりではなく、同じ職場の同一業務について通算されること
【32.8%】一般事務など「自由化業務」の場合、派遣スタッフの受入れに際し、派遣先は派遣元に対して抵触日を通知する義務があること
【48.5%】一般事務など「自由化業務」の場合、最長3年の派遣受入期間制限を超えると、派遣スタッフを直接雇い入れなくてはいけないこと
【58.6%】労働者派遣契約にない仕事を派遣スタッフにさせてはいけないこと、させる場合は契約変更が必要であること
【63.7%】契約前に複数の候補者に会って派遣スタッフを選んではいけないこと


 いずれの設問も労働者派遣の基本中の基本の内容であるにも関わらず、派遣先企業の管理者の理解度がかなり低いことが明らかになっています。この原因は労働者を派遣する際に十分な説明ができていない派遣元企業にも責任があると考えられますが、客観的に見てもこの状態は大きな問題です。法改正が行われる前に、現在の枠組みの中で専門26業務の適正化指導が行われたことを考えると、今回の調査結果を受けて、厚生労働省が自由化業務に関しても派遣先企業に対する調査・指導を強化する可能性があるかも知れません。


 労働者派遣は企業にとっては採用の手間や雇用のリスクなどの点において使い勝手がよい労働力であるという側面があるのは間違いありません。しかし、派遣法が定める様々な制約があることを理解した上で活用しなければ、知らず知らずのうちに法違反を起こしているということにもなり兼ねません。派遣を活用されている企業のみなさんはいま一度、労働者派遣法の基礎的事項を確認し、自社の運用状況のチェックを進めて頂きたいと思います。



関連blog記事
2011年1月24日「労働局調査の影響が想定される政令26業務に従事する派遣労働者の大幅減少」
https://roumu.com
/archives/51818193.html

2010年6月5日「春先に実施された専門26業務の違法派遣調査の指導監督件数は891件」
https://roumu.com
/archives/51743975.html

2010年6月4日「厚生労働省から出された労働者派遣 専門26業務に関する疑義応答集」
https://roumu.com
/archives/51744726.html

2010年2月25日「改正労働者派遣法「おおむね妥当と認める」との答申を受け、法案国会提出へ」
https://roumu.com
/archives/51701310.html

2010年2月18日「3月より専門26業務の違法派遣に関する労働局の集中調査が実施されます」
https://roumu.com
/archives/51697231.html

2009年12月31日「労政審 注目の改正労働者派遣法の答申を公表」
https://roumu.com
/archives/51673876.html

2009年12月21日「非常に労働者保護色の強い労働者派遣法改正法案の部会報告骨子」
https://roumu.com
/archives/51669388.html


参考リンク
厚生労働省「平成21年度「派遣先における派遣労働者の雇用管理の具体的応用事例集の作成事業」報告書」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/haken-shoukai19/index.html


(大津章敬)


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