希望者全員の65歳までの継続雇用の方針が示された厚労省の報告書

希望者全員の65歳までの継続雇用の方針が示された厚労省の報告書 一昨日(2011年6月7日)、厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」は、公的年金支給開始年齢(老齢厚生年金の報酬比例部分)の65歳への引上げが開始される平成25(2013)年度を目前に控える中で、希望者全員の65歳までの雇用確保策、年齢にかかわりなく働ける環境の整備についての報告書をまとめました。本日はこの報告書のポイントについてまとめてみましょう。

 この報告書でもっとも重要なポイントとなっている希望者全員の65歳までの継続雇用の部分ですが、その方策としては、(1)現行60歳である法定定年年齢を65歳まで引き上げる方法、あるいは(2)法定定年年齢を60歳としたままで希望者全員の65歳までの継続雇用を確保する方法が考えられますが、このうち(1)の65歳定年義務化は時期尚早であり、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢の65歳への引上げが完了するまでに、引き続き議論を深めていくべきとされています。その結果、(2)の継続雇用制度での雇用確保を進めるという方向でまとまっていますが、現在、労使協定の締結を前提に認められている継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準の設定は、希望者全員の65歳までの雇用確保を実現するための、いわば過渡的な措置であるものとして、廃止するべきとされました。

 これに関連して、賃金・人事処遇制度の見直しという箇所に気になる記載が見られます。「在職中でも厚生年金を受給できる仕組み(在職老齢年金制度)が設けられており、特に、現在の60歳代前半の者の賃金は、年金を受給できることを前提に決定されている側面もあると考えられるが、厚生年金の報酬比例部分についても今後支給開始年齢が段階的に65歳まで引上げられ、60歳代前半の者に対する給付がされなくなっていくことを考えると、60歳代前半の高年齢者の賃金について、その生活の安定を考慮し、労使の話し合いにより仕事内容とそれに見合った労働条件の設定について適切なものとしていくことが重要であるという記述ですが、継続雇用の際の賃金設定において何らかの規制というが設けられる可能性が残されたと考えられるでしょう。また社会保険制度に関しても、現行制度上は、65歳未満とされている雇用保険の適用対象の拡大などについても検討するべきとしています。

 今回の報告書の内容を踏まえ、厚生労働省は秋以降、労働政策審議会で高年齢者雇用安定法改正などの検討に入ることとなります。企業の人事管理や従業員の働き方に大きな影響を与える法改正ですので、継続的に注目しておきたいところです。


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2011年5月12日「厚労省研究会 65歳への定年引上げを盛り込んだ報告書を提出へ」
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2011年3月30日「継続雇用制度の労使協定がない事業所における定年退職者の雇用保険離職理由は事業主都合扱いに」
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2010年12月17日「平成23年3月31日で終了する定年後の継続雇用制度の対象者基準に係る特例」
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2009年10月29日「増加する高年齢者の常用労働者数 今後は70歳までの雇用が焦点に」
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参考リンク
厚生労働省「第5回今後の高年齢者雇用に関する研究会議事次第」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001eu2c.html

(大津章敬)

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