社員が残業命令を無視して帰宅してしまいました!
繁忙期を迎え、次第に職場の雰囲気がピリピリし始めている服部印刷。そんな中、年始より労務上の問題が続いて発生している。今回は残業命令を無視した社員が出たということで訪問することになった。
宮田部長:
またまた頭の痛いことが起きて、先生にお越しいただくことになりました。実は、わが社も繁忙期に入り、次第に猫の手も借りたいほどの忙しさになってきました。そのような中、一昨日お得意先から急ぎの仕事があり社員に残業を指示したのですが、1人だけ何も言わずにさっさと帰ってしまったのです。これまでこんなことはありませんでしたので、どのように対応したら良いものでしょうか?これからますます忙しい時期に入りますので、そのようなことがあると困りますので、できるだけ早急に対応した方がよいと思っています。
大熊社労士:
ほぉ、なるほど。状況は少し分かりましたが、もう少し状況を教えてください。まず、その社員は普段残業をしているのですか?
宮田部長:
はい、残業があるときは他の社員と一緒に残って仕事をしており、今まで特に残業を嫌がったということはありませんでした。また、普段の働きぶりも悪くはありません。
大熊社労士:
そうですか。ところで、残業を指示したのはいつですか?
服部社長:
そのお得意先からの「納期を2日早めて欲しい」という依頼の電話があったのがその日の朝一番で、その後、現場の課長と相談して、残業が必要だと判断したのは午後3時前だったと思います。
大熊社労士:
少し遅いような気がしますが、いつもそのような段取りで指示を出しているのですか?
服部社長:
そうですね、実はその日は残業をしない日として皆には伝えてあり、私自身少し迷いもあったので現場の課長と相談するまでに時間がかかってしまいました。また、結果的に現場の社員に伝わったのが終業時刻の30分前だったと聞いています。
大熊社労士:
彼は、普段は残業もしており、働きぶりも平均以上ということを考えると、その日は何か、特別な理由でもあったのではないでしょうか?
服部社長:
たぶんそうでしょうね、まだ理由は聞いていませんが。彼は無口な方で、なかなか思っていることを話してくれないところがあります。今回残業を拒否したことについても、彼なりに理由があると思うのですがそれを上手く話せなかったのではないかと思います。翌日には残業もしっかりやってくれたので、あまり彼を追い詰めるようなことはしたくありませんが、他の社員への影響を考えると、なんらかの対応はしておかなければならないのではないかと思います。
大熊社労士:
そうですね。まずは彼に残業を拒否した理由をよく聞いてください。何か理由があるのなら、残業指示があったときに必ず上司と相談することが社員としての義務であることを理解させ、そのように行動させることが必要です。無口な性格であっても、それを理由に会社のルールを無視していいということにはなりません。
服部社長:
それはそうですね。
大熊社労士:
また、御社としても残業指示の出し方について検討する必要があるでしょう。その時その時の状況もあるでしょうが、終業時刻直前に命令するのはやはり望ましい状態とはいえません。自分の受け持ち作業の進み具合が遅れているというのであれば自分で残業の見込みもつくでしょうが、突然発生する残業は、社員には予測できません。今回の場合でしたら、午前中にある程度残業の見込みがついたと思われますので、お昼前にそのことを連絡しておけば、場合によってはお昼の休憩時間に、残業ができるよう自分の予定を調整ができたかもしれません。突発的なことで残業をしなければならないことは、よくありますが、その場合でもできるだけ早く社員にそのことを伝えて準備させるような配慮も会社として必要だと思います。更に今回の場合は特にノー残業デーと予定していただけにより配慮が必要だったのではないでしょうか。
宮田部長:
そうですね。今回は、残業指示が後手に回ってしまいました。こちらにも反省すべきところがありましたので今後注意します。そして、残業についてこれからは超繁忙期であるため、社員にはあらかじめ命令があることを覚悟しておいて欲しいと伝えておきます。また予め残業時間数も伝えられるように普段から作業の進捗状況管理をより一層確実にしていきたいと思います。
大熊社労士:
なお、御社の場合、就業規則で残業の定めがあり、時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)でも残業を命ずる理由も具体的に明示されていますので、書類上は特に問題はないでしょう。
服部社長:
普段あまり意識していない残業の指示についても、こうしてみるといろいろ考えておかなければならないのですね。勉強になりました、ありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は、残業拒否をした社員への対応について取り上げてみました。みなさんもご存知のとおり残業をさせるには36協定において具体的な事由を明示し、かつ、延長することができる時間も定めた上で締結し、労働基準監督署に届出ていなければなりません。加えて、就業規則でも残業についての定めがなければいけません。また実際、残業指示を行う場合、それが合理的なものである必要があります。残業の必要性がなかったり、残業指示の方法に問題があるなど社員の側に残業に応じがたい理由があったにもかかわらず、残業の指示に違反したからといってむやみに懲戒処分とするのは問題です。また厳しすぎる処分は懲戒権の濫用となり、処分無効とされる場合があります。同時に計画性のない、その場その場の残業指示は社員のモチベーションを下げてしまうことにもなりますので注意してください。
[関連判例]
日立製作所武蔵工場事件 平成3年11月28日 最高裁(1小)
労働基準法32条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる36協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該36協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、当該就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。
関連blog記事
2008年1月14日「2月14日セミナー「増加する問題社員への対応と法的知識」受付開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51222651.html
2007年12月3日「大熊blog:36協定の限度時間と特別条項とは何ですか?」
https://roumu.com/archives/64751919.html
2007年11月26日「大熊blog36協定の労働者代表はどのように選出すれば良いのですか?」
https://roumu.com/archives/64742927.html
2007年11月19日「大熊blog本社で36協定を届け出るだけではダメなのですか?」
https://roumu.com/archives/64734929.html
2007年2月8日「時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52082070.html
2007年2月7日「時間外・休日勤務申請承認書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52081500.html
2007年2月12日「内定者が鼻ピアスをして来ました!」
https://roumu.com/archives/52248098.html
2006年11月03日「【労務管理は管理職の役割】残業命令の条件」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50780380.html
2006年05月07日「会社の望む仕事以外で残業する従業員への対処」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50539484.html
参考リンク
福岡労働局「時間外労働 休日労働 に関する協定届:記載例」
http://www.fukuoka.plb.go.jp/29joken/joken01_09.html
(鷹取敏昭)
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