就業規則で定める労働条件も労働契約の内容となることをご理解ください

 大熊社労士から労働契約法のレクチャーを受けている服部社長と宮田部長。これまであまり意識せずに扱ってきた労働契約について、基本的なルールを学ぶことができたと感じている。




大熊社労士:
 引き続き労働契約法の解説を行いましょう。第2章は、労働契約の成立および変更についてです。



労働契約法第6条(労働契約の成立)
 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。



服部社長:
 労働契約法の締結に関することは、第4条にも同じようなことが書いてありましたね。
大熊社労士大熊社労士:
 えぇ、第4条は労働契約の内容の理解の促進でしたね。それに対し、この第6条は労働契約の成立について規定しています。条文にあるように「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払う」ことについて合意すると労働契約が成立します。その合意の方法については、述べられていませんので口頭でも合意はできますが、同法の第4条第2項で「できる限り書面により確認する」よう規定されているように、後々になって労使双方の認識が違っていたということがないよう書面によって取り扱うことが望ましいでしょう。
服部社長服部社長:
 重複しているような感じを受けますが、法律上では別々に定めることが必要なのでしょうね。ところで、最近いろいろな形態の働き方があって問題になっていると聞きますが、この労働契約法ではどう整理されているのでしょうか?
大熊社労士:
 はい、労働契約法では、労働契約はその形式的なものにとらわれることなく、実際の使用従属関係があるか否かで判断されることになります。例えば、昨年秋にバイク便のドライバーを一定条件のもとに労働者として認めるよう厚生労働省は各労働局に一斉に通達を出しましたが、これも形式にとらわれず実態を見て判断するという考え方に基づいています。なお、使用従属関係というのは、使用者の指揮・命令に基づいて労働が提供される関係をいいます。それでは次の第7条を見てみましょう。


労働契約法第7条
 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。



宮田部長:
 就業規則の労働条件=労働契約の内容、と考えてよいのですか?
大熊社労士:
 はい、労働契約の締結の際、次の2つの条件を満たしていれば就業規則で定める労働条件が、労働者の労働条件になるというものです。
合理的な内容の就業規則である
労働者に周知させていた(労働者がいつでも見られる状態にしていた)
宮田部長:
 合理的な内容の就業規則とありますが、合理的と認められるためには、特別な要件が設定されているのでしょうか?
大熊社労士:
 この点に関しては様々な議論がありますが、就業規則に規定する内容が労働基準法に定められた事項を法令に違反することなく規定され、労働者代表の意見を聴く手続きを経て、労働基準監督署へ届出ておけば良いと思われます。
服部社長:
 就業規則の周知は、確か労働基準法にも規定されていますね。以前、大熊さんからも同じような指導もありましたのでよく覚えていますが、そのことでしょうか?
大熊社労士:
 はい、御社の場合は適切な対応をして頂いていますので問題はありませんが、会社によっては使用者が就業規則を机の中にしまっておいて、労働者が見たくても見られないケースもあります。その場合は、労働者に周知されていたとはいえず、その就業規則は労働者の労働条件になりません。
宮田部長宮田部長:
 なるほど。10人未満の事業所の場合は、就業規則を労働基準監督署へ届出る必要はないと思いますが、労働契約との関係はどのように考えればよいでしょうか?
大熊社労士:
 その場合は、確かに就業規則を労働基準監督署へ届出る必要はありませんが、就業規則で定める労働条件が労働者の労働条件になるのですから、10人未満の事業所であっても就業規則はきちんと作成しておくのが望ましいですね。
宮田部長:
 就業規則作成と労働基準監督署への届出とは、別々に考えればよいのですね。
大熊社労士:
 はい、そのようにお考えください。第7条のただし書は、就業規則で定める労働条件が多くの労働者に対して一律的に適用されるものとなりますが、その場合でも労働者のそれぞれの事情や条件に合わせて、柔軟に労働条件を決めることができます。就業規則で定めているよりも有利な条件で労働契約をした場合は、その合意が優先されることになるというものです。ただし、実務的には労働条件が個々人で異なると労務上管理しにくくなりますので、そのような条件の労働者が多くならないように注意が必要でしょう。

>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は労働契約法の第6条および第7条(労働契約の成立)について取り上げてみました。一般に使われる労働条件通知書や労働契約書では、労働時間や賃金など労働条件の主要な事項を明記しますが、詳細な条件まで定めることはありません。それを補完するのが就業規則で定める労働条件となりますので、就業規則が労働契約において重要な意味を持つことが理解できると思われます。なお、本文でも書きましたが10人未満の事業所でもぜひ就業規則は作成しておいてください。次回も引き続き労働契約法について解説してまいります。


[関連法規]
労働基準法 第9条(定義)
 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。


民法 第623条(雇用)
 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。


民法 第632条(請負)
 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


民法 第643条(委任)
 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。



関連blog記事
2008年4月28日「労働者への安全配慮義務はどの程度まで考える必要があるのですか?」
https://roumu.com/archives/64875574.html
2008年4月21日「労働契約の内容を労働者に十分理解させることが必要です」
https://roumu.com/archives/64875186.html
2008年4月14日「労働契約の5原則について説明しましょう」
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2008年4月7日「労働契約法ってどのような法律で、なぜできたのですか?」
https://roumu.com/archives/64868369.html
2008年03月12日「最近の労働法令改正から見る労務管理のトレンド」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51275190.html
2008年2月19日「厚労省よりダウンロードできる労働契約法のポイント資料」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51258163.html


参考リンク
厚生労働省「労働契約法がスタート!平成20年3月1日施行」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/index.html
厚生労働省「労働契約法 参考となる裁判例」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/12.pdf
独立行政法人労働政策研究・研修機構「バイシクルメッセンジャー及びバイクライダーの労働者性について」
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/siryo/pdf/20071003.pdf


(鷹取敏昭)


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