労働者死傷病報告はどのような場合に提出する必要があるのですか?

 服部印刷では、先日、社員が通勤途中にケガをして入院するという事件があった。その後、その社員はしばらく会社を休んでいたことから、宮田は監督署に死傷病報告の届出が必要ではないかと心配になり、大熊社労士に相談することとした。



宮田部長宮田部長:
 大熊先生、こんにちは。先月、当社の社員が通勤途中に足を骨折して入院した際には、いろいろと相談させてもらいました。ありがとうございました。
大熊社労士:
 そうでしたね。その後いかがですか?
宮田部長:
 はい、退院後もしばらく自宅療養をしていたのですが、来週から出勤し、まずは事務所内で営業事務の仕事をすることにしています。彼は会社を1ヶ月あまり休んでいたのですが、監督署に死傷病報告を提出しなければならないのでしょうか?
大熊社労士:
 それは4日以上休業した場合に届出ることになっている、労働者死傷病報告のことですね。結論から言うと、今回は通勤災害でしたので届出の必要はありません。詳しくお話しましょう。労働者死傷病報告は、労働安全衛生法第100条において、労災事故に遭い、労働者が4日以上の休業をした場合または死亡した場合にその都度提出しなければならないとされています。また、4日未満の休業については四半期に1回報告することになっており、1月から3月分を4月末までに報告することになっています。
宮田部長:
 4日未満の休業であれば、まとめて提出するということですね。
大熊社労士:
 この死傷病報告の対象となるものは、労働災害、就業中または事業場内において、負傷、窒息または中毒等によって死亡または休業した場合についてとされています。通勤災害についてはこの対象に含まれませんので、報告の義務はないということになります。ただし、自宅から直接営業先に行くような場合で事故に遭った場合は、通勤災害ではなく業務災害となりますので、休業すれば死傷病報告の対象となります。
福島照美福島さん:
 ということは、通勤災害と業務災害のどちらに該当するのか、きちんと情報を確認した上で対応することが重要になりそうですね。ちなみに、この死傷病報告を忘れていた場合はどうなるのでしょか?
大熊社労士:
 この報告を怠ったり事実と異なる内容を報告したりすると、いわゆる「労災隠し」をしているのではないかと監督署から思われかねないでしょう。労働安全衛生法第120条に罰則規定がありますので、会社や事業所の責任者、あるいは総務の責任者等が書類送検されたり、罰金が適用される可能性もあります。
宮田部長:
 なるほど。労災に遭い休業した場合に届出が必要であることを頭に入れておきます。ちなみに現在、別会社からの出向者(在籍出向)を受け入れているのですが、万が一、この者が労災事故に遭い休業するようなことになった場合、当社が届出を行うことになるのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 基本的な考え方として、労災事故に遭ったときの災害補償の責任は、その者と労働契約を結んでいる会社にあります。在籍出向の場合は、出向元と出向先の両方で労働契約が存在しますので、基本的な考え方に倣うと労災保険の適用についても出向元と出向先で存在してしまうということになってしまいます。この点については、通達(昭和35年11月2日 基発第932号)が出されており、「出向労働者に係る保険関係が、出向元事業と出向先事業とのいずれにあるかは、出向の目的および出向元事業主と出向先事業主とが当該出向労働者の出向につき行った契約ならびに出向先事業における出向労働者の労働の実態等に基づき、当該労働者の労働関係の所在を判断して、決定すること」となっています。
宮田部長:
 出向の契約と就業の実態等から判断するということですから、当社の工場で仕事をしており、ケガをしてしまった場合は、当社で労災保険を適用することになりますね。今日のお話で、死傷病報告についてよくわかりました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は死傷病報告について取り上げてみましたが、併せて派遣社員が労災事故に遭った場合の死傷病報告の取扱いについてもお話しましょう。派遣社員が労災事故に遭い休業した場合については、派遣先、派遣元ともに、それぞれの所轄の労働基準監督署に死傷病報告を行う必要があります。これについては、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律第45条第15項の中に、労働安全衛生法に関する読み替え規定があり、派遣先、派遣元ともに報告が必要とされています。また、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則第42条に、派遣先の事業者は労働者死傷病報告を提出したとき、遅滞なくその写しを派遣元の事業者に送付しなければならないとされています。そのため、実務上の流れとしては、まずは派遣先が所轄の労働基準監督署へ死傷病報告を行い、そのコピーを派遣元に送付し、今度は派遣元が事実確認を行った上で死傷病報告を行うという対応になります。


[関連法規]
労働安全衛生法 第100条(報告等)
 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。
3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。


労働安全衛生規則 第97条(労働者死傷病報告)
 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第23号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2  前項の場合において、休業の日数が4日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、1月から3月まで、4月から6月まで、7月から9月まで及び10月から12月までの期間における当該事実について、様式第24号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。



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参考リンク
厚生労働省「労災制度・手続の概要、労災かくし事例紹介」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/roudou/rousai/index.html
神奈川労働局「労働者死傷病報告の提出(派遣労働者に係る様式の改正)」
http://www.kana-rou.go.jp/users/kijyun/az_haken_kaikin_aneikakuho_point_2_5.htm


(福間みゆき)


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