最終的には残業時間の絶対数を短くしていかなければなりません
2ヶ月以上に亘って行なってきた未払い残業代請求問題連載も今週で最終回。今週は全体のまとめということで、実質的な労働時間削減の必要性について解説する。
大熊社労士:
このように未払い残業代請求問題について見て来ましたが、いかがでしたでしょうか?
服部社長:
はい、当社ではかつて月間30時間での残業時間のカットを行なっていましたが、それは既に改善が済んでいます。しかし、それ以外にも管理監督者の問題や営業職の時間外手当の問題など、まだまだ対応をしなければいけない点がいくつもあると再認識をしたところです。
大熊社労士:
そうですね。これまでお話したとおり、この問題に対応するためには形式的な労働時間制度の整備と実質的な労働時間の削減という2つの問題が存在します。前者は、所定労働時間や労働時間把握の仕組みの見直し、変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制や裁量労働制などの採用、管理監督者の範囲の見直し、固定残業制の導入といった、これまでお話したような就業規則上の対策ですね。
宮田部長:
はい、もう検討しなければならないことが山のようにあって混乱気味ですが、どのような点に問題があるのかは理解したつもりです。今後、継続的に相談に乗って下さいね。
大熊社労士:
えぇ、もちろんです。以上が就業規則を中心とした形式的な環境整備ですが、未払い残業代請求問題に対応するためにはこれだけでは不十分です。当たり前のことですが、実際の労働時間を短縮し、時間外労働自体を実質的に減らしていかなければ本質的な問題解決とはなりません。
服部社長:
そうですね。当社もこれまで週40時間制の導入など時短には取り組んできましたが、実質的に労働時間が減少しているかと言えば、十分とは言えないように思います。
大熊社労士:
昔からわが国はホワイトカラーの生産性の低さが国際的にも指摘されていますが、やはり最終的には如何に生産性を向上させるかという話になるのでしょう。残業というと、社員の能力の不足や意識の欠如なども確かにその要因の一つにはなっていますが、そうした従業員側の問題だけで解消しようとしても限界があります。私もいろいろな企業で時間短縮のコンサルを行ってきましたが、いつも最終的には会社の仕組みに問題があることが多いと感じています。
宮田部長:
会社の仕組みですか?
大熊社労士:
はい、例えば営業が超短納期の仕事を受注してきて、製造現場が大混乱して残業が増加するということはよくあるのではないでしょうか?
宮田部長:
はい、当社でもそれはありますね。営業にしてみれば「お客様の要望に応えて仕事を取ってくるのが営業の仕事だ」と考えているのでしょうけれども。
大熊社労士:
そうですね。確かに企業である以上、お客様の要望にお応えするのはもっとも基本的な態度であるとは思いますが、「お客様第一主義」を履き違えると大変なことになります。本当の意味でお客様の要望に応えようとするのであれば安定的な商品・サービスの提供までをも考えておく必要があります。お客様の要望を錦の御旗として、お客様と納期等の交渉を行なわず、製造などの生産計画を乱すことを許していては、残業は増加する一方ですし、結果的には納期や品質面にも悪影響が出てくることでしょう。
服部社長:
まったくもってその通りです。やはり全体の業務フローをチェックして、スループットを極大化するような取り組みが当社でも必要ではないかと思います。
大熊社労士:
そのためには社長がイニシアティブを取って、全社の業務改善を進める姿勢を見せるべきだと思います。「当社は会社、社員、お客様の幸せのために、業務の生産性を高める必要がある。労働時間を減らしながら、品質と納期を高めていきたい。それを実現するために会社が支援すべきすることはきちんと支援するので、みんなでアイデアを出し合って行きたい」と、是非社員に対して宣言してあげて下さい。
宮田部長:
それはいいですね。実際に生産性を高めようとすると、営業から納品までのすべての業務プロセスを見直す必要があります。場合によってはこれまで行っていた仕事の一部を止めるであるとか、新しい設備を導入するということもあるでしょう。こうした判断は従業員ではできませんものね。やはり会社が不退転の決意を持って、仕事のやり方を変革していく必要がるのだと思います。
服部社長:
そうだな。これまで当社は社員一人ひとりの能力や経験に依存していた部分もあるので、基本的な業務についてはマニュアル化なども必要かも知れない。いまから現状分析を行った上で、来期の経営計画には生産性向上の取り組みを盛り込んで、全社で推進していくことにしよう。
大熊社労士:
それは素晴らしいですね。生産性を高め、労働時間を減少させていくにあたっては、社員のみなさん自身も意識改革が必要になります。これまで長年行なってきた仕事の進め方を見直さなければならない訳ですから。この意識改革は一筋縄ではいかないと思いますので、勉強会なども行ない、徐々に社長の決意を浸透させていくことにしましょう!
服部社長:
分かりました。未払い残業代の対策としても進める必要はありますが、今回はそれに止まらず、当社の組織力の強化を目指して改革を進めたいと思います。大熊さん、今後も協力をよろしく頼みますよ。
大熊社労士:
分かりました。喜んで!
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。5月にスタートした未払い残業代請求問題の連載ですが、これで完結させたいと思います。今回もこの問題の全体像を理解していただくことを目的に話を進めましたが、ご理解いただけましたでしょうか?未払い残業代請求問題は退職者などから請求を受けてからでは十分な対応を取ることは困難です。よって問題が顕在化する前に労働時間制度の見直しや実際の労働時間の削減などを進めておくことが重要になります。中長期的には労働人口の減少がわが国における人事労務管理の最大の課題になることは確実です。こうした環境変化に備え、いまの段階から生産性の高い業務の進め方を模索しておきたいものです。
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(大津章敬)
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