雇用保険の失業手当の延長申請について教えてください

 服部印刷では前回から雇用保険の失業手当について大熊によるレクチャーが始まっている。今回は雇用保険でいうところの「失業」に該当しない人の取り扱いについて説明することになっていた。



福島さん:
 
大熊先生、こんにちは。
大熊社労士
 
こんにちは。前回の続きですから、雇用保険の「失業」に該当しない人の取り扱いについて説明するのでしたよね。
福島照美福島さん:
 
はい、出産で働けない場合には失業に該当しないのでせっかくかけてきた雇用保険は無駄になってしまうのでは?と心配になりまして・・・。

大熊社労士:
 
前回もお話しましたが、そのような場合には延長の申請ができます。出産がイメージしやすいのかも知れませんが、その他にも病気、ケガ、妊娠、満3歳未満の子の育児、親族の介護、小学校就学前の子の看護、一定のボランティア活動等が延長の申請理由として考えられます。
福島さん:
 
このように考えると案外幅広く認められるのですね。
大熊社労士:
 はい、そうですね。これらの理由で働けない人というのは理由がなくなれば「失業」の状態に該当するでしょうから、例外処理が必要となりますよね。
福島さん:
 先生のおっしゃる延長の申請をするとどのように取り扱われるのですか?
大熊社労士大熊社労士:
 まず基本から整理しましょう。そもそも基本手当を受給できる期間は、原則として離職した日の翌日から1年間となっています。ただし、基本手当が受けられる日数(所定給付日数)が330日の人は離職した日の翌日から1年に30日を加えた期間、所定給付日数が360日の人は離職した日の翌日から1年に60日を加えた期間となっています。
福島さん:
 1年間でもらいきらないと失業手当は切り捨てられてしまうと聞いたことがあるのですが、この期間のことだったんですね。
大熊社労士:
 そうなんです。延長申請については、原則として離職した日の翌日から1年間のうちに、先ほど挙げた理由で引き続き30日以上働くことができない期間がある場合に申請することができます。この申請を行うことで、原則1年間であった受給期間に、働くことができない期間(最長3年)が加わり、これが基本手当が受給できる期間となります。
福島さん:
 そうなんですね。ということは、出産予定の社員が退職するとき、「どうせ失業手当はもらえないから離職票はいらない」と口にしますが、本当は延長の申請の話を説明し、離職票の要否を確認したほうがよいということですね。
大熊社労士:
 おっしゃるとおりです。たとえすぐには働けなくとも、出産後に就職活動をする可能性があるならば作成しておいたほうがいいですね。
宮田部長:
 といっても、当社では出産が理由で退職した社員は多くないので、これまでも問題は起こっていなかったんだろう。
大熊社労士:
 そうですね。今後、説明をした上で確認をすれば問題ないと思いますよ。
福島さん:
 はい、対象者が出たときには必ず確認するようにします。ところで、実際に離職票を発行した後はどのような延長の手続きをすればいいのでしょうか?
大熊社労士:
 具体的な説明をしておかなければなりませんね。まず、申請はハローワークで行います。先ほど説明したように引き続き30日以上働くことができない期間がある場合に申請しますので、このような状態となったときにハローワークに出向くこととなります。この申請には期限がありますので、注意してください。その期限とは働くことができない状態が30日経過した後から1ヶ月以内となっています。
宮田部長宮田部長:
 1ヶ月間か・・・案外短いですね。となると、例えば本人が大ケガをし、延長申請をしたいにも長期入院をせざるを得ずハローワークに出向けない場合にはどうなりますか?
大熊社労士:
 この申請については本人または代理人で行うことができますので、そのようなケースでは代理人を立てていただくことになるでしょうね。代理人を立てる場合には委任状が必要ですので、準備をしなければなりません。
福島さん:
 出産間近の人に関しても代理人が立てられるのであれば一安心ですね。申請には何を持っていけばいいのですか?
大熊社労士:
 はい、会社で手続きし発行した離職票1.2と受給期間の延長理由が確認できる証明等と印鑑を持っていく必要がありますね。もちろん代理人の場合には委任状をお忘れなく!そして、ハローワークにある「受給期間延長申請書」を記入し、申請することとなります。
福島さん:
 それでは、先ほどから話題に挙げている出産の場合には、延長申請の手続きを早めに行うよう、注意を促さなければなりませんね。
大熊社労士:
 そうですね。出産、育児に集中していたら、受給期間が過ぎていた、ということもありえますから十分ご注意ください。
福島さん:
 わかりました。
宮田部長:
 ところで大熊先生、最初の方で挙げていた理由以外にも、定年退職し、しばらくゆっくりしてから再就職口を見つけたい、という人もいるかと思いますが、このような場合でも受給期間は原則1年ということになるのですか
大熊社労士:
 いい質問ですね。実は先ほどは混乱しないように挙げずにいたのですが、宮田部長のおっしゃるように、60歳以上の定年等で退職し、しばらくの間ゆっくりしたいという人のため
の延長の申請もあるのですよ。
福島さん:
 これも今後、重要になりそうですね。どのような仕組みなのですか?
大熊社労士:
 はい、基本的には先ほど説明した延長の申請の仕組みと同じだと考えてください。ただ、少し異なる部分があります。定年退職等で、一定期間再就職を希望しない人については、最長1年間受給期間を延長することができます。
福島さん:
 先ほどより期間が短いのですね。
大熊社労士:
 そうですね。加えて、申請期限も退職日の翌日から2ヶ月以内に本人が手続きを行うことになっています。
福島さん:
 本当に少しだけ違うのですね(笑)。出産とは異なるので説明のときに注意しなければなりませんね。
大熊社労士:
 そうですね。よろしくお願いします。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。失業手当の受給に関しては、あくまでも退職後のことであり、本人の様々な理由が絡むため、細やかなアドバイスは難しいとは思います。しかし、収入が途絶える退職者にとっては、失業手当の受給は死活問題ともいえるでしょう。必要に応じて、アドバイスが行えるように事前に知識を持ち、説明することが総務担当者には望まれるでしょう。



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(宮武貴美)


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