住宅手当も時間外割増賃金の計算基礎に入れる必要があるのですか?
現在、自らのキャリアアップのためにと労働基準法の勉強をしている福島さん。今日は先日、テキストの中で見かけた割増賃金計算に関する事項について大熊社労士に質問してみることにした。
大熊社労士:
福島さん、おはようございます。労働基準法の勉強の方は順調に進んでいますか?
福島さん:
ありがとうございます。なんとか頑張れています。これまで会社の実務の中で行っていることの根拠や背景が徐々に分かってきたので、面白くなってきました。今日は勉強している中で新たに知ったことがあったので、質問させてください。住宅手当は基本的に時間外割増賃金の計算から除外できると思っていたのですが、それにはもう少し細かい要件があるのですね。
大熊社労士:
はい、よく勉強されましたね。この点は意外に知られていないので、悪気なく法違反をしてしまっている企業が少なくない実務上の落とし穴なのです。そもそも時間外割増賃金の対象賃金は原則としては基本給のみならず固定給をすべて合算した金額(※歩合給などの特例もあり)となります。ただし、ここから除外できる7つの手当が労働基準法および同施行規則で定められています。福島さん、その7つとは何でしょうか?
福島さん:
はい、ちょうど勉強したところです。家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、1ヶ月を超える期間毎に計算される賃金等の7つですね。
大熊社労士:
素晴らしい!そのとおりです。
宮田部長:
福島さん、すごいじゃないか!こんなにスラスラ出てくるなんて!一所懸命勉強している証拠だね。いやぁ、本当に素晴らしい!
福島さん:
ありがとうございます。
大熊社労士:
本当によく勉強されていますよね、私も感心しました。さて問題はここからです。ここで住宅手当が除外賃金として挙げられましたが、住宅手当が割増賃金の基礎から除外できるようになったのは、平成11年10月1日の労働基準法改正によってでした。その際、一定の要件が加えられたのです。それは、割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱うというものです。具体的には住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの、住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給することとされているもの、そして全員に一律に定額で支給されているものは除外されない(平成11年3月31日 基発170号)とされています。
福島さん:
ということは例えば、賃貸住宅に居住する世帯主たる従業員には一律で20,000円を支給するといった住宅手当は時間外割増賃金の基礎に加える必要があるのですね。
大熊社労士:
はい、そのとおりとなります。よって基礎から除外するためには家賃の30%といったように実際の負担額と連動するような定め方をすることが求められるのです。
宮田部長:
そうなんですね。これって結構間違っている企業が多いように思いますね。
大熊社労士:
そうですね。誰でも住宅には居住していますから、例えば全社員に一律50,000円の住宅手当を支給することで時間外割増賃金の単価を不当に引き下げるようなことができないように対策されているのでしょうね。
福島さん:
なるほど、よく分かりました。また勉強する中で疑問に思ったことが出てきた際には教えてくださいね。
大熊社労士:
分かりました。いつでもどうぞ!
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は時間外割増賃金の基礎額に関する事項について取り上げてみました。文中にも記載しましたが、住宅手当の取り扱いについては細かいルールが定められており、単に住宅手当という名目で支給されているだけでは、時間外割増賃金の基礎額から除外することはできません。このルールを知らず、無意識のうちに未払い残業代を発生させてしまっている事例が非常に多くなっています。逆に言えば、住宅手当の支給基準を見直せば、適正に除外できるわけですから、もし現在の運用に問題がある場合にはこの機会に見直しを検討されてはいかがでしょうか。
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(大津章敬)
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