内閣答弁書で示された労基署の指導監督の役割および法違反に係る勧告・指導の位置付け
本日は2010年11月22日のブログ記事「内閣答弁書示された「監督官には不払い残業代の支払い命令権限なし」という見解」に引き続き、11月9日に内閣から衆議院に送付された「衆議院議員村田吉隆君提出労働基準監督機関の役割に関する質問に対する答弁書」の内容について取り上げましょう。
月曜日は、労働基準監督官が、労働基準法上、同法に違反して支払われていない賃金の支払を命ずる権限を有していないという見解について取り上げましたが、今回は労働基準監督署の指導監督の役割および法違反に係る勧告・指導の位置付けについての答弁内容を取り上げます。
【質問二】
監督機関の基本的役割は、罰則の適用を背景として現に確認し得た法違反についてこれを将来に向かって是正させ、かつ、再び法違反を生じせしめないよう監督指導することにあるのではないか。この点に関する見解を問う。
【内閣答弁書】
二について
お尋ねの労働基準監督機関の基本的役割は、法定労働条件の確保による労働者保護にあり、これを果たすために行う監督指導の目的は、使用者に対して法違反を指摘するとともに、法の趣旨を十分に理解させ、法遵守のための方法等について助言指導することにより、その的確な是正と遵法意識の定着化を図ることにあると認識している。
【質問三】
遡及是正の勧告の対象とする事案は、賃金不払事件として立件するに足りる客観的な確証が得られたものに限るべきであり、不払いに係る労働日数、労働時間数、金額等を特定し得ないものについては、これを行うべきではないのではないか。この点に対して見解を示されたい。
【質問六】
タイムカードの打刻時刻から算出された労働時間の中身につき、労使に争いがある場合、これは当事者間で解決すべき問題であり、紛争解決の最終手段として、民事訴訟が用意されている。しかし、是正行政の現場では、監督官の裁量により、「賃金請求権の時効にかからない、二年間の遡及是正」や「六ヶ月間の是正遡及」といった勧告がされている。しかしこれは民事の問題であり、たとえば、交通事故の現場に駆けつけた警察官が、加害者に対し「被害者の損害賠償金として〇〇万円、いつまでに支払いなさい」と命令することと同じである。こうした、民事に関する事案に支払命令を出す権限があるのは、三権分立の精神からして、裁判所に限定されるものであると解される。はたして、監督官には、民事に介入する、すなわち労働時間数、金額が確定していない残業代請求に関し、こうした遡及是正を勧告する権限があるのか、法的根拠を明らかにしお示しいただきたい。
【内閣答弁書】
三及び六について
労働基準監督官は、臨検等の結果、労働基準法に違反して賃金が支払われていないことが確認された場合や、労働時間数等の全部又は一部について賃金が支払われていない事実がある旨の労働者からの申告があることなど、同法に違反して賃金が支払われていない疑いがあるため、使用者に対し当該労働時間数等を自主的に確認するよう指導を行った結果、同法に違反することが確認された場合には、当該違反を的確に是正させるため、使用者に対しその不払賃金の支払をするよう勧告を行うものである。これらの勧告や指導は、厚生労働省設置法(平成十一年法律第九十七号)第四条第一項第四十一号に掲げる厚生労働省の所掌事務に関する行政指導として行うものである。
未払い残業代請求問題の拡大が懸念される中、今回の答弁書が実務に与える影響については今後も注視していきたいところです。
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参考リンク
労働基準監督機関の役割に関する質問主意書
平成22年10月29日提出 質問第103号
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a176103.htm
衆議院議員村田吉隆君提出労働基準監督機関の役割に関する質問に対する答弁書
内閣衆質176第103号 平成22年11月9日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b176103.htm
衆議院議員 村田吉隆
http://murata-yoshitaka.jp/
(大津章敬)
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