内閣答弁書で示されたタイムカード打刻時間と現実の労働時間の関係

質問 本日は、11月9日に内閣から衆議院に送付された「衆議院議員村田吉隆君提出労働基準監督機関の役割に関する質問に対する答弁書」の内容の短期連載の最終回。今回は、タイムカードの記録に基づく賃金支払いの必要性について述べられている部分について取り上げます。



【質問四】
 タイムカードで、正確な労働時間が算定できるか否かの疑義がある。判例には、「就業開始前の出勤時刻については余裕をもって出勤することで始業後直ちに就業できるように考えた任意のものであったと推認するのが相当であるし、退勤時刻についても既に認定した営業係の社員に対する就労時間の管理が比較的緩やかであったという事実を考えると、打刻時刻と就労とが一致していたと見做すことは無理があり、結局、原告についてもタイムカードに記載された時刻から直ちに就労時間を算定することは出来ないと見るのが相当である」とされた三好屋商店事件(東京地判、昭和六十三年五月二十七日)、や「被告におけるタイムカードも従業員の遅刻・欠勤を知る趣旨で設置されているものであり、従業員の労働時間を算定するために設置されたものでないと認められる。したがって、同カードに打刻・記載された時刻をもって直ちに原告らの就労の始期・終期と認めることはできない」とされた北洋電機事件(大阪地判、平成元年四月二十日)など、タイムカードで直ちに労働時間を算定することができないと否定的な立場のものも少なくない。


 また、平成十六年三月二日受領の「衆議院議員長妻昭君提出国のタイムカード導入及び賃金不払い残業に関する質問に対する答弁書」(内閣衆質一五八第一五号)において、国は「厚生労働省における職員の勤務時間管理については、国の機関として国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)、人事院規則等に基づき勤務時間報告書等を適切に管理することにより特段の支障なく行っているところであり、また、タイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないことから、勤務時間管理の手法としてタイムカードの導入は必要でないと考える。(中略)タイムカード導入のメリット及びデメリットについては、その導入により職員の登庁及び退庁の時刻を把握することが可能になると考えられるが、一方、機械的に登庁及び退庁の時刻を記録するタイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないと考えられ、また、導入のための費用も必要になると考えられる。」と答弁している。


 このように国が、国家公務員の勤務時間の把握につき、「職員の正確な勤務時間が把握できない」と認識しているタイムカードにつき、民間に対しては、その打刻時刻にもとづいて労働時間を算定すること、ならびに、これにより算出された労働時間から、賃金の支払いを強要することは、おかしいのではないか。この点につき、見解を明らかにされたい。


【内閣答弁書】
四について
 労働基準監督機関においては、御指摘のようにタイムカードの記録により算定された労働時間に基づく賃金の支払を強要しているわけではなく、タイムカードの使用を含め、個々の事業場の実情に応じた適切な方法により確認された労働時間に基づき、賃金を支払うよう行政指導を行っているものである。



 厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」においては、使用者にタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として、始業・終業時刻を確認し、記録することを求めていますが、今回の答弁ではタイムカードの打刻時間が必ずしも労働時間と一致するものではないという点が確認されています。もっともタイムカードの打刻時刻を無視してもよいというものではありませんので、実態としての労働時間を合理的に算定する仕組みの構築が求められます。


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参考リンク
労働基準監督機関の役割に関する質問主意書
平成22年10月29日提出 質問第103号
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a176103.htm
衆議院議員村田吉隆君提出労働基準監督機関の役割に関する質問に対する答弁書
内閣衆質176第103号 平成22年11月9日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b176103.htm
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html
衆議院議員 村田吉隆
http://murata-yoshitaka.jp/


(大津章敬)


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