育児休業復帰後は休業前の原職に復帰させなければならないのか?

 次世代育成支援やワークライフバランスの流れを受け、大企業を中心に育児休業制度の拡充を進める動きが強まっています。そこで今後、育児休業制度に関するトピックを不定期で連載していきたいと思います。さて、初回は育児休業の課題のひとつとして指摘されることが多い、育児休業取後の配置について取り上げてみましょう。



【質問】
 当社では、今年の6月に育児休業から復帰予定の社員がいます。以前は、経理の業務に就いていましたが、決算業務を行う関係で育児休業後に増員を行っており、新体制で業務が円滑に進んでいます。そこで、今回復帰する社員には経理の仕事ではなく、営業事務の仕事で復帰してもらいたいと考えていますが、問題はありますか?なお、就業規則には「育児・介護休業後の勤務は、原則として、休業直前の部署及び職務とする」と記載してあります。


【回答】
 必ずしも法律で原職での復帰が義務付けられているわけではありませんが、可能な限り配慮することが求められます。また、復帰に際して配置転換する場合には、配置転換後の労働条件にも問題がないよう検討する必要があります。今回のご質問の内容は、配置に関する配慮義務と不利益取扱いの両面から考える必要があるでしょう。
配置に関する配慮義務
 育児介護休業法では、育児休業取得後における就業が円滑に行われるようにするため、配置その他の雇用管理等に関し、必要な措置を講ずるように努力義務を課しています。また、指針においても、原則として原職または原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮することが示されています。育児休業からの復帰は労働者の環境を大きく変化させるものであることを考えるとできる限り、原職に復帰させることが求められます。


 ただし、今回のご相談のように休業期間中に代替要員を手配するなどの状況もあるでしょうから、そうした環境変化を考えると、原則に復帰させるのが難しい場合も多いのではないかと思います。そうした場合はできるだけ原職に近い仕事や環境を用意し、対象となる社員に十分な説明をすることが求められるでしょう。


不利益取扱い
 育児介護休業法では、育児休業をしたことを理由とする不利益な取扱いを禁止しています。やむを得ず配置転換を行うことになった場合、それがこの不利益取扱いに該当すると指摘される可能性があります。それを未然に防ぐために、配置転換後の業務量や通勤時間長さなど、全体的な労働条件について配慮をする必要があるでしょう。特に、(職種に対応した手当が不支給になるなど)職務内容が変わることで賃金を下げざるを得ない場合には本人の同意を取っておくことが求められます。


【まとめ】
 今回のケースのように育児休業からの復帰に際し、原職に復帰させるのではなく、配置転換を行わざるを得ないような場合には、事前に本人への十分な説明を行ない、了承を得ておくことが最大のポイントとなります。また、その説明の経緯や配慮した事項など協議の実績については、後々のトラブル防止のためにも記録として残しておきたいところです。更には、育児休業規程において、原職で復帰させることができない場合には労働条件を見直すということがある旨を明記しておくことも望まれます。


 なお、育児休業者の代替要員の確保や原職復帰に関しては、財団法人21世紀職業財団の助成金制度があります。こちらの詳細は参考リンクでご確認ください。


[参考条文]
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 第10条(不利益取扱いの禁止)
 事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。


子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針
七 法第二十二条の規定により育児休業又は介護休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理に関して必要な措置を講ずるに当たっての事項
 (一)  育児休業及び介護休業後においては、原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われているものであることに配慮すること。
 (二)  育児休業又は介護休業をする労働者以外の労働者についての配置その他の雇用管理は、(一)の点を前提にして行われる必要があることに配慮すること。



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2007年10月13日「次世代育成支援策 各社の具体的取り組み状況」
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2007年1月23日「中小企業の育児休業に対し100万円の助成金」
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Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog「育児介護関連」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/cat_50218347.html


参考リンク
財団法人21世紀職業事業財団「仕事と育児・介護との両立の支援」
http://www.jiwe.or.jp/ryoritsu/01_assist.html
独立行政法人労働政策研究・研修機構「ワーク・ライフ・バランス」
http://www.jil.go.jp/tokusyu/worklife/index.htm


(宮武貴美)


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