長時間労働者への医師による面接指導の費用負担
平成20年4月より全事業所で義務化になった長時間労働者への医師による面接指導。今回は、この面接指導の費用負担について読者の方から質問がありましたので取り上げてみましょう。
[質問]
当社では、毎年4月から8月が繁忙期であり、残業がかなり増加します。残業時間が100時間を超えるような社員も発生することが予想され、疲労が溜まっていると思われる社員も少なからずいます。そこで、長時間労働者に対し、医師の面接指導を受けることを勧める予定をしています。受診に関しては、本社に近い医療機関を指定するほか、自宅の近くの医療機関での受診も可能とする考えでいますが、そこで問題となるのが受診費用の負担です。面談指導の費用はどのように扱えばよいのでしょうか?
[回答]
面接指導は、時間外労働時間が100時間を超過し、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場合に医師におる面接指導を義務付けたもの(画像はクリックして拡大)であり、事業主は面接指導後に医師の意見を聴取し、事後措置の実施を行わなければなりません。この面接指導に要した費用の取扱いについては通達で「面接指導の費用については、法で事業者に面接指導の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること」と定められており、事業主の負担とされています。したがって、自宅近くの医療機関等で受診した場合には、一旦、社員が立て替え、領収書に基づき会社に請求をするといった方法を取ることが求められます。なお、面接指導に要した時間については、同じ通達で「面接指導を受けるのに要した時間に係る賃金の支払いについては、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、面接指導を受けるのに要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと」とされていますので、あらかじめ、きちんと取り決めておくことが求められます。
[まとめ]
労働安全衛生法の改正も施行から2年が経過し、長時間労働者への医師による面接指導についても徐々に浸透してきたようです。企業のリスク管理という観点からも、長時間労働者に面接指導を受けるよう推奨するとともに、根本原因である長時間労働をなくすような対策が求められているでしょう。
[関連法規等]
労働安全衛生法等の一部を改正する法律(労働安全衛生法関係)等の施行について(平成18年2月24日 基発第0224003号)
7 面接指導等(第66条の8、第66条の9等関係)
(1) 面接指導(第66条の8関係)
ア 第1項関係
(ア) 脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の発症が長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、これら疾病の発症を予防するため、医師による面接指導を実施すべきこととしたものであること。また、労災認定された自殺事案をみると長時間労働であった者が多いことから、面接指導の実施の際には、うつ病等のストレスが関係する精神疾患等の発症を予防するためにメンタルヘルス面にも配慮すること。
(イ) 面接指導を実施する医師としては、産業医、産業医の要件を備えた医師等労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師が望ましいこと。
(ウ) 面接指導の費用については、法で事業者に面接指導の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。
(エ) 面接指導を受けるのに要した時間に係る賃金の支払いについては、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、面接指導を受けるのに要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。
(オ) 派遣労働者に対する面接指導については、派遣元事業主に実施義務が課せられるものであること。なお、派遣労働者の労働時間については、実際の派遣就業した日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間について、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)第42条第3項に基づき派遣先が派遣元事業主に通知することとなっており、面接指導が適正に行われるためには派遣先及び派遣元の連携が不可欠であること。
イ 第4項関係
(ア) 医師の意見聴取については、面接指導を実施した医師から、面接指導の結果報告に併せて意見を聴取することが適当であること。なお、地域産業保健センターの医師により面接指導を実施した場合は、事業者は当該医師から意見を聴取すること。
(イ) 面接指導を実施した医師が、当該面接指導を受けた労働者の所属する事業場で選任されている産業医でない場合には、面接指導を実施した医師からの意見聴取と併せて、当該事業場で選任されている産業医の意見を聴取することも考えられること。
ウ 第5項関係
(ア) 面接指導実施後の措置の例として、医師の意見の衛生委員会等又は労働時間等設定改善委員会への報告を規定した趣旨は、Ⅰの5と同様であること。
また、衛生委員会等又は労働時間等設定改善委員会への医師の意見の報告に当たっては、医師からの意見は個人が特定できないように集約・加工するなど労働者のプライバシーに適正な配慮を行うことが必要であること。
(イ) 特にメンタルヘルス不調に関し、面接指導を受けた結果として、事業者が労働者に対して不利益な取扱いをすることがあってはならないこと。
(ウ) 事業者は、面接指導により労働者のメンタルヘルス不調を把握した場合は、必要に応じ精神科医等と連携を図りつつ対応することが適当であること。
労働安全衛生法 第66条の8(面接指導等)
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。
2 労働者は、前項の規定により事業者が行う面接指導を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合において、他の医師の行う同項の規定による面接指導に相当する面接指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第1項及び前項ただし書の規定による面接指導の結果を記録しておかなければならない。
4 事業者は、第1項又は第2項ただし書の規定による面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師の意見を聴かなければならない。
5 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
関連blog記事
2008年3月25日「平成20年4月から長時間労働者への医師による面接指導の実施が50人未満の事業所でも義務化」
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2008年2月13日「平成20年4月施行 改正安衛法における定期健康診断等の項目改正」
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2008年2月7日「平成20年4月スタート!メタボの「特定健康診査」と「特定保健指導」の概要」
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2007年12月6日「定期健康診断で「所見あり」とされた場合に受給できる二次健康診断給付」
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2006年05月22日「改正労働安全衛生法による長時間労働者の面接指導制度」
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参考リンク
厚生労働省「労働安全衛生法の改正について」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/index.html
厚生労働省「改正労働安全衛生法 平成18年4月1日施行。」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/060401.html
(宮武貴美)
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