企業再編における人事労務問題(その2)

 本日は10月2日のブログ記事「企業再編における人事労務問題(その1)」の続きをお届けします。



 一般に、合併、営業譲渡では、異なる企業の制度や風土を一つにするための様々な課題がある。大きくは「労働条件」と「人事制度」の二つの分野において、どうやって異なるものをすり合わせるか、ということになる。
労働条件のすり合わせ~労働時間、休日等
 最大の課題となる労働時間(裏腹の関係で休日)は、日・週・月・年の単位で見ていく必要がある。最終的には年間総労働時間の差異で検討することが多いが、年間では揃えたとしても、1日の所定労働時間が変われば時間外労働の把握の仕方も変わる。例えば、休日は増えたが1日所定7時間労働であったものが7時間30分労働に変われば、仮に1日に9時間労働した場合の時間外手当に不利益が生ずる。もちろん1週40時間以内であれば法違反ではないが、労働条件の不利益変更だと言われかねない。これに限らず、不利益変更をクリアするためには以下の諸要件を合理的に説明することが要求される。
(1)変更の必要性
 合併によって諸制度を統合させる必要がある、という理由
(2)不利益の程度
 年間総労働時間は変わらないので大きな不利益はない、という理由
(3)変更後の制度の妥当性
 適法であり、休日の増加は労働行政にも副う、という理由
(4)代償措置、激変緩和措置
 労働時間や休日の変更に関しては一斉に行うことが多いため、この措置は難しい
(5)十分な話し合いの経緯
 これは意を尽くし、十分な期間と回数をもって、真摯に話し合うこと


人事制度のすり合わせ~給与制度(退職金含む)、人事評価
 企業再編で真っ先に問題になるのが退職金である。特に適格退職年金で外部積立をしている場合は合併等の日付を境に制度が終わってしまうことがあるため、最初に取り組まなければならない課題となる。また、再編を機に退職金制度を清算するのか、継続するのか、の選択を迫られるケースがある。合併は当然承継となるため、退職金制度は原則として引き継がれるが、被合併会社が消滅することで退職金を清算、新会社で新規スタートさせるケースを時々見受ける。(これを退職所得とするためには税法上の諸要件をクリアする必要がある)


 さて、退職金が引き継がれると言っても制度が異なる場合、どのようにこれを引き継ぐのかは大きな課題となる。ダブルスタンダードで当面は走る手はあるが、退職金は時間の経過と共に問題が大きくなる傾向があるため、できれば合併時の段階で新制度を構築しておきたいところである。よくあるのが、既得金額を再編日前日で確定させたうえで、退職金の基本給連方式を廃し、職能等級ポイント制や中退共を利用した職能等級別掛け金設定方式に移行する方法である。それに類似させたキャッシュバランスプランやDC(確定拠出型)も候補になるだろう。



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(小山邦彦)


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