[ワンポイント講座]1ヶ月間まったく出社なしの場合の通勤手当不支給の取り扱い

 本日は「人事労務ワンポイント講座」の第7回です。最近は海外などに長期出張する社員も増えていますが、社員が長期出張のため1ヶ月間まったく出社しない、あるいは数日しか出社しないといったケースがあります。今回はこのようなケースにおける通勤手当の取扱いについてお話しましょう。


 通勤のための費用は、労働者が労務の提供をするために必要となる費用であるため、民法の原則から考えると、労働者の負担ということになります。よって会社は必ずしも通勤手当を支払う必要はありませんが、多くの会社では、就業規則や労働契約において通勤手当の支給を定め、通勤費用の全額または一部を支給しています。この通勤手当については就業規則等の中に定められることによって、労働基準法における「賃金」として扱われることになり、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則が適用されることになります。そのため、規定上の根拠がないにも関わらず通勤手当を減額したり、不支給とすることはできません。つまり、今回のような長期出張のため1ヶ月間まったく出社しないような場合についても、就業規則等の中に通勤手当の減額や不支給を行う旨の根拠規定がなければ、通勤手当を減額したり、不支給することはできないことになります。


 しかし、そもそも通勤手当は会社に出社するための実費弁償が基本であり、今回のようにまったく出勤がないにも関わらず通勤手当を支給するというのは不合理であると考える企業も少なくないでしょう。そのように考え、手当不支給の取り扱いを行う場合には、例えば「欠勤その他の事由により、月の初日から末日まで期間の全日数にわたって通勤しない場合は当該月に係る通勤手当は支給しない」というように規定しておくことが求められます。ただし、これまでこのような取扱いをしておらず、新たにこのような根拠規定を置く場合は、就業規則の不利益変更に該当することに注意が必要です。


 最後に、就業規則の不利益変更に関し、それの有効性を判断する「合理性」の判断に係る判例を押さえておきましょう。第四銀行事件(最高裁二小 H9年2月28日判決)において、就業規則の変更の合理性の有無は、具体的には、労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきであるとされています。さらに、大曲市農協共同組合事件(最高裁三小 S63年2月16日)において、賃金や退職金については高度の必要性が要求されるとなっています。通勤手当については、労働の対価そのものというより、実費弁償的な側面が強いことから、基本給などに比べると支給ルールを変更することは認められやすいと考えます。しかし、一般的に社員が通勤定期券を購入していることなどにも配慮し、ルールの設定を行うことが求められるでしょう。


[関連法令]
労働基準法 第24条(賃金の支払)
 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。



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(福間みゆき)


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