[ワンポイント講座]社員がダブルワークを行う際の留意点

 昨年秋以降、企業収益の急激な悪化を受け、多くの企業では一時的に休業を実施したり残業規制をするなど、雇用調整が行なわれています。これにより従業員の立場としては残業がなくなったり、休業のために自宅待機を求められるなどして、実際に賃金の手取り額が以前に比べて大幅に減ってしまい、ローンなどの返済で生活費のやり繰りが厳しいという現実に直面している人も少なくありません。そのため、休日を利用してアルバイトをする労働者が増加し、このような働き方を「ダブルワーク」と呼ぶようになっています。そこで今回のワンポイント講座では、社員がダブルワークをする際の留意点を取り上げてみましょう。


 社員がダブルワークをする際に一番注意しなければならない点は、過重労働です。ダブルワークの実態を見ると、出勤日の後にアルバイトをするケースよりも、平日は通常の勤務を行った上で、土・日曜日を使ってアルバイトをしているケースが多いようです。このような働き方の場合、1週間の間に休日が1日もないという状態になりますので、過重労働が懸念されます。そもそも労働基準法第35条において、使用者は毎週少なくとも1回は休日を与えることになっています。そのため二つの会社で働く場合については、会社として土・日曜日を休日にしているから問題ないとしてしまうのではなく、従業員がアルバイトをする場合は許可制とし、土・日曜日のいずれか一方は必ず休みを必ず確保してもらうか、あるいは勤務時間を短くするなどして過重労働を防止する措置を講じていくことが求められます。


 次に問題となることが、割増賃金の支払です。これはパートが他の仕事を掛け持ちしている場合と同様に、二つの事業主に雇用される場合については、その労働時間を通算することになっています。そもそも労働時間の考え方としては、労働基準法第32条において「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」と定められています。そして、この時間の計算については、労働基準法第38条第1項の中で「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」こととされています。なお、この「労働時間に関する規定」については、労働基準法第32条のほかに、第33条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)、第36条(時間外及び休日の労働)等の規定が含まれ、この「事業場」についても同一の事業主に属する異なる事業場だけでなく、「事業主を異にする事業場において労働する場合も含まれる」(昭和23年5月14日 基収769号)とされているため、他社でアルバイトをする場合についても労働時間を通算することが必要となっています。そのため、平日は残業なしで合計40時間の勤務をしている場合は、土・日曜日にアルバイトをすることによって週40時間を超えて働くことになるため、割増賃金の支払が必要になります。この割増賃金の支払について会社とアルバイト先のどちらが支払わなければならないのかという問題が出てきますが、これについては関連する行政通達が出されています。そこには、「法定時間外に使用した事業主は法第37条に基づき、割増賃金を支払わなければならない」(昭和23年10月14日 基収2117号)と示されていることから、上記の例の場合、後に契約を結んだアルバイト先の方で法定労働時間を超える時間について割増賃金を支払う必要があります。


 ダブルワークを希望する者を雇い入れる会社については、割増賃金の支払も含めて賃金を支払っていく必要があり、また過重労働についても例え土・日曜日の2日間勤務であったとしても使用者としての責任を負いますので、従業員が出勤した際に体調を確認するなどの対応が求められます。



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(福間みゆき)


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