厚労省見解および民法の危険負担から考える新型インフルエンザに罹患した従業員の給与の取扱い

 2009年9月9日のブログ記事[ワンポイント講座]「社員あるいはその家族が新型インフルエンザに罹患した際の給与の取扱いについて」では、新型インフルエンザに従業員が感染した場合の労務管理上の取り扱いというテーマを取り上げましたが、9月下旬に厚生労働省より「新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A」が公表されましたので、この見解をもとに再度、社員あるいはその家族が新型インフルエンザに罹患した際の給与の取扱いについて取り上げてみましょう。


 まず、厚生労働省の見解としては、以下ように示されています(厚生労働省「新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A」より抜粋)。
従業員が新型インフルエンザに感染したため休業させる場合の取扱い
 新型インフルエンザに感染しており、医師等による指導により労働者が休業する場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。医師や保健所による指導や協力要請の範囲を超えて(外出自粛期間経過後など)休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。


従業員の家族が感染したためその労働者を休業させる場合の取扱い
 家族が新型インフルエンザに感染している労働者について、濃厚接触者であることなどにより保健所による協力要請等により労働者を休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。協力要請等の範囲を超えて休業させる場合や、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。


 上記のように、従業員本人あるいは家族が感染した場合のいずれの場合においても、医師や保健所による指導や協力要請の範囲で休業する場合、休業手当の支払は必要なく、その範囲を超えて会社が念のために休ませるような場合は、休業手当の支払が必要とされています。


 以上が厚生労働省の見解であり、原則的な取り扱いとなりますが、法律論的には今回のように家族が感染しており従業員にその疑いが高いという事実をみると、それは民法第536条2項の「債権者(=使用者の)の責めに帰すべき事由」による労務の受領拒否でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」ではないと考えることができます。このことから、ノーワークノーペイの原則(民法第536条1項)により、少なくとも検査の結果、新型インフルエンザに感染していないことが明らかになるまでの間は、賃金や労働基準法上の休業手当の支払義務は発生しないという見解も一つとしてあるようです。


 会社としては感染防止拡大の防止を図りながらも、従業員が安心して休暇を取得できる体制を整えることが求められています。今月後半には新型インフルエンザのピークを迎えると言われているため、会社としては感染予防の周知を図るとともに、会社の取扱い(新たな特別休暇の付与等)を決めておくことが望まれます。


[関連法規]
感染症予防法 第6条(定義)
1~6 省略
7 この法律において「新型インフルエンザ等感染症」とは、次に掲げる感染性の疾病をいう。
一  新型インフルエンザ(新たに人から人に伝染する能力を有することとなったウイルスを病原体とするインフルエンザであって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)
二  再興型インフルエンザ(かつて世界的規模で流行したインフルエンザであってその後流行することなく長期間が経過しているものとして厚生労働大臣が定めるものが再興したものであって、一般に現在の国民の大部分が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)


感染症予防法 第44条の3(感染を防止するための協力)
 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、当該感染症の潜伏期間を考慮して定めた期間内において、当該者の体温その他の健康状態について報告を求めることができる。
2 都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定により報告を求めた者に対し、同項の規定により定めた期間内において、当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる。
3 前二項の規定により報告又は協力を求められた者は、これに応ずるよう努めなければならない。
4 都道府県知事は、第二項の規定により協力を求めるときは、必要に応じ、食事の提供、日用品の支給その他日常生活を営むために必要なサービスの提供又は物品の支給(次項において「食事の提供等」という。)に努めなければならない。
5 都道府県知事は、前項の規定により、必要な食事の提供等を行った場合は、当該食事の提供等を受けた者又はその保護者から、当該食事の提供等に要した実費を徴収することができる。



関連blog記事
2009年9月29日「厚生労働省より新型インフルエンザによる休業時の給与取り扱いに関するQ&Aが公開」
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2009年9月18日「従業員の家族が新型インフルエンザ罹患した際の自宅待機等の取扱い 多くの企業の対応は?」
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2009年9月17日「新型インフルエンザ対策の社内研修に最適!政府インターネットテレビ」
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2009年9月15日「従業員が新型インフルエンザ罹患で休業した場合の賃金の取扱い 多くの企業の対応は?」
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2009年9月9日「[ワンポイント講座]社員あるいはその家族が新型インフルエンザに罹患した際の給与の取扱い」
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2009年7月6日「新型インフルエンザを理由とした休業等についても雇用調整助成金の対象に」
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/archives/51582309.html


参考リンク
厚生労働省「新型インフルエンザに関連して労働者を休業させる場合の労働基準法上の問題に関するQ&A」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/20.html
厚生労働省「新型インフルエンザ対策関連情報」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html


(福間みゆき)


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