[ワンポイント講座]年休付与の8割要件における事業主都合による休業日の取扱い

 新聞報道や各種統計によれば企業業績にも底入れ感が見られるようになっていますが、中小の製造業などでは未だ一時帰休が常態化している企業も少なくない状況が続いています。年次有給休暇(以下、「年休」という)の発生要件の一つに、「全労働日の8割以上出勤した」ことが定められていますが、一時帰休が長引いている企業では年休の付与にあたって休業日をどのように取り扱えばよいのかという疑問が浮かんでくるのではないかと思います。そこで今回のワンポイント講座では、年休の出勤率を計算する際の休業日の取扱いについて取り上げることにします。


 年休の発生要件については、労働基準法第39条において定められており、使用者は「雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務」および「全労働日の8割以上出勤」の2つの条件を満たした労働者に10労働日の有給休暇を与えなければならないとされています。ここにいう「全労働日」とは、労働契約上労働義務を課せられている日のことをいい、具体的には就業規則等で定められている所定労働日のことを指します。逆の言い方をすれば、休日は労働契約において労働義務がない日ですから、「全労働日」に含まれません。


 生産調整などにより事業主都合の休業を行う場合には、労働者側には何の落ち度もなく、労務を提供できる状態であるにもかわらず、事業主が就労を拒むわけですから、労働義務がない日と捉えることとなります。そのため、事業主都合の休業日については、休日と同様に「全労働日」から除くべきと考えられ、通達でも8割出勤の算定にあたって、この休業期間を「全労働日」から除外すべきとされています(昭33.2.13基発90、昭63.3.14基発150)。


 このように休業を実施した企業においては、年休の付与の8割出勤の算定では休業日を分母から除いて計算しなければなりませんので、注意が必要です。


[関連法規]
労働基準法 第39条(年次有給休暇)
 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
2 使用者は、一年六箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して六箇月を超えて継続勤務する日(以下「六箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数一年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる六箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である者に対しては、当該初日以後の一年間においては有給休暇を与えることを要しない。


[関連通達]
昭33.2.13基発90号、昭63.3.14基発150号
 年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る。したがって、所定の休日に労働させた場合には、その日は、全労働日に含まれないものである。なお、次に掲げる場合については全労働日に含まれないものとする。
一 使用者の責に帰すべき事由による休業の日
二 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日



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(佐藤和之)


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