[ワンポイント講座]年次有給休暇の計画的付与日は変更できるか
自動車や家電などの製造業を中心として、生産調整のために年次有給休暇取得によって休業させたり、一時帰休を実施する企業が増えています。生産調整のための一斉休業に年次有給休暇を充当するためには、年次有給休暇の計画的付与という制度を利用することが通常です。この制度を利用することで、年次有給休暇のうち5日を超える部分については企業が具体的な日を指定して取得させることができます。今回のワンポイント講座では、この計画的付与により指定した日を変更する必要が生じた際に、その日を変更することができるかどうかについて取り上げたいと思います。
計画的付与の制度は、年次有給休暇の利用促進と事業運営の合理的調整を図るために設けられていることから、原則としては指定された年次有給休暇を会社・従業員の都合で一方的に変更することはできないこととされています。通達(昭和63年3月14日 基発第150号、婦発第47号)においても、「労使協定による計画的付与において、指定した日に指定された労働者を就労させる必要が生じた場合、使用者は時季変更権を行使できるのか」という質問に対して、「計画的付与の場合には、労働基準法第39条第4項の労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない」としています。
よって、この対策としては、計画的付与を行う際に結ぶ「協定書」の中に、あらかじめ特別事情による変更の定めを行っておくことが求められます。以下にその条文サンプルを記載しますが、このように計画休暇の変更手続きを協定内に定めておくことで、これを根拠に指定した日を変更することができるようになります。
[協定条文サンプル]
第○条(計画年休の変更)
会社および従業員は、当労使協定によって年次有給休暇の計画休暇日が確定している場合であっても、やむを得ない事情がある場合には、○日前に申し出ることにより、この休暇日を変更することができる。
2.会社および従業員は前項の申し出について、業務の正常な運営を妨げ、または従業員の予定を著しく妨げるような事情がない限り、これに応じるものとする。
このほか、計画的付与に関する課題としては、計画付与する年次有給休暇の日数が残っていない場合の対応があります。例えば、3月1日に全社休業を設定し、その日を年次有給休暇の計画的付与で対応しようとする場合、今年の1月1日に入社した従業員についてはまだ年次有給休暇が発生していないため、計画的付与を行うことができません。このような場合の対応としては以下の2つの方法が考えられます。
特別休暇の付与
休業手当の支払
については通達(昭和63年3月14日 基発150号)において、「事業場全体の休業による一斉付与の場合、年次有給休暇の権利のない者を休業させれば、その者に、休業手当を支払わねば労働基準法第26条違反となるか」という質問に対して「見解のとおり」とされています。よって特別の休暇等を付与しないのであれば、会社としてはその日について最低限の保障、つまり休業手当の支払をしなければならないということになります。
[関連法規]
労働基準法 第39条(年次有給休暇)
使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。2 使用者は、1年6箇月以上継続勤務した労働者に対しては、雇入れの日から起算して6箇月を超えて継続勤務する日(以下「6箇月経過日」という。)から起算した継続勤務年数1年ごとに、前項の日数に、次の表の上欄に掲げる6箇月経過日から起算した継続勤務年数の区分に応じ同表の下欄に掲げる労働日を加算した有給休暇を与えなければならない。ただし、継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日の前日の属する期間において出動した日数が全労働日の8割未満である者に対しては、当該初日以後の1年間においては有給休暇を与えることを要しない。
6箇月経過日から起算した継続勤務年数 労働日
1年 1労働日
2年 2労働日
3年 4労働日
4年 6労働日
5年 8労働日
6年以上 10労働日
3 次に掲げる労働者(1週間の所定労働時間が厚生労働省令で定める時間以上の者を除く。)の有給休暇の日数については、前2項の規定にかかわらず、これらの規定による有給休暇の日数を基準とし、通常の労働者の1週間の所定労働日数として厚生労働省令で定める日数(第1号において「通常の労働者の週所定労働日数」という。)と当該労働者の1週間の所定労働日数又は1週間当たりの平均所定労働日数との比率を考慮して厚生労働省令で定める日数とする。
1.1週間の所定労働日数が通常の労働者の週所定労働日数に比し相当程度少ないものとして厚生労働省令で定める日数以下の労働者
2.週以外の期間によって所定労働日数が、定められている労働者については、1年間の所定労働日数が前号の厚生労働省令で定める日数に1日を加えた日数を1週間の所定労働日数とする労働者の1年間の所定労働日数その他の事情を考慮して厚生労働省令で定める日数以下の労働者
4 使用者は、前3項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
5 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項から第3項までの規定による有給休暇を与える時季に関する定めをしたときは、これらの規定による有給休暇の日数のうち5日を超える部分については、前項の規定にかかわらず、その定めにより有給休暇を与えることができる。
6 使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇の期間については、就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより、平均賃金又は所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金を支払わなければならない。ただし、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その期間について、健康保険法(大正11年法律第70号)第99条第1項に定める標準報酬日額に相当する金額を支払う旨を定めたときは、これによらなければならない。
7 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第2条第1号に規定する育児休業又は同条第2号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第65条の規定によって休業した期間は、第1項及び第2項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。
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(福間みゆき)
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