[ワンポイント講座]雇入れ時の労働条件明示をFAXや電子メールで行なうことは可能か
これから春先にかけては、新たに労働者を雇入れることが多くなる時期ではないでしょうか。労働者を雇入れる際には、その労働者に対して労働条件の主要部分を明示することが義務付けられていますが、中でも特に重要な部分については、書面の交付による明示が必要とされています。しかしながら、書面の交付となると、印刷や発送等でコストがかかるものです。多数のアルバイトを雇用しているような業種の企業の場合には、そのコストも大きなものとなることでしょう。そこで今回のワンポイント講座では、雇入れ時の労働条件明示を書面ではなく、FAXや電子メールで代用することができるかどうかについて取り上げてみましょう。
雇入れ時の労働条件明示については、労働基準法第15条第1項において、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない」と定められています。後段の「厚生労働省令で定める方法」とは、同法施行規則第5条第3項において「書面の交付」とされていることから、賃金や労働時間等労働契約の重要な要素となる部分については書面を交付する必要があるわけです。この点については、書面交付以外の方法での明示を認める法令等が存在しないため、必要事項についての書面の交付をしなかった場合には30万円以下の罰金という罰則も設けられております。
以上が原則となりますが、パートタイマーについては労働条件の明示において電子メールやFAXを部分的に使用することができます。パートタイム労働者を雇入れる際には、一般労働者に対して明示を行う項目に加え、パートタイム労働法第6条および同法施行規則第2条において、「昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無(以下、特記事項という)」を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法によって明示しなければならないとされています。パートタイム労働者に対して上乗せで明示が求められているこれら特記事項については、当該労働者の希望がある場合に限り、書面交付以外にもFAX送信や電子メール送信(ただし、電子メール送信での明示については、印刷して書面を作成できるものに限る)による明示が認められています。
ただ、ここで注意しなければならないのは、この場合であってもFAXや電子メールで明示ができるのは、特記事項の部分のみであって、労働基準法において明示が必要であると規定されている部分については、「書面の交付」による明示が必要であり、FAXや電子メールにて明示を行ったとしても、別途書面交付が求められます。また、FAX送信や電子メール送信での明示については、労使間で送った、送っていないという問題が起きやすいため、到着および印刷を行ったことの確認をとることが望ましいでしょう。
なお、派遣労働者については、派遣元が派遣労働者に対して労働基準法に定める労働条件のほか、従事する派遣先事業所の名称・所在地などの就業条件等を明示しなければなりませんが、労働者派遣法で定めるこの部分の明示については、「書面の交付」以外の方法としてパートタイム労働者の場合同様、当該労働者の希望がある場合に、FAXや電子メールの送信も認められています。
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(佐藤和之)
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[関連法規]
労働基準法 第15条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
労働基準法施行規則 第5条
使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。ただし、第四号の二から第十一号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四の二 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
六 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
七 安全及び衛生に関する事項
八 職業訓練に関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
十 表彰及び制裁に関する事項
十一 休職に関する事項
2 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
3 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。
パートタイム労働法 第6条
事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
2 事業主は、前項の規定に基づき特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第十五条第一項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものについても、文書の交付等により明示するように努めるものとする。
パートタイム労働法施行規則 第2条
法第六条第一項の厚生労働省令で定める短時間労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。
一 昇給の有無
二 退職手当の有無
三 賞与の有無
2 法第六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、前項各号に掲げる事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを当該短時間労働者が希望した場合における当該方法とする。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールの送信の方法(当該短時間労働者が当該電子メールの記録を出力することによる
書面を作成することができるものに限る。)
3 前項第一号の方法により行われた法第六条第一項に規定する特定事項(以下本項において「特定事項」という。)の明示は、当該短時間労働者の使用に係るファクシミリ装置により受信した時に、前項第二号の方法により行われた特定事項の明示は、当該短時間労働者の使用に係る通信端末機器により受信した時に、それぞれ当該短時間労働者に到達したものとみなす。
労働者派遣法 第34条
派遣元事業主は、労働者派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明示しなければならない。
一 当該労働者派遣をしようとする旨
二 第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項であつて当該派遣労働者に係るもの
三 第四十条の二第一項各号に掲げる業務以外の業務について労働者派遣をする場合にあつては、当該派遣労働者が従事する業務について派遣先が同項の規定に抵触することとなる最初の日
2 派遣元事業主は、派遣先から第四十条の二第五項の規定による通知を受けたときは、遅滞なく、当該通知に係る業務に従事する派遣労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務について派遣先が同条第一項の規定に抵触することとなる最初の日を明示しなければならない。
労働者派遣法施行規則 第25条
法第三十四条第一項及び第二項の規定による明示は、当該規定により明示すべき事項を次のいずれかの方法により明示することにより行わなければならない。ただし、同条第一項の規定による明示にあつては、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらかじめこれらの方法によることができない場合において、当該明示すべき事項をあらかじめこれらの方法以外の方法により明示したときは、この限りでない。
一 書面の交付の方法
二 次のいずれかの方法によることを当該派遣労働者が希望した場合における当該方法
イ ファクシミリを利用してする送信の方法
ロ 電子メールの送信の方法