健康保険料の引上げが検討されている協会けんぽの財政状況

健康保険料の引上げが検討されている協会けんぽの財政状況 先日、全国健康保険協会運営委員会が開催され、現在の健康保険料率9.34%を更に引上げ9.53%とする必要があることが示されました。本日は健康保険財政の現状を理解すべく、委員会での資料から重要指標の動向を中心に見ていきましょう。



標準報酬月額と保険給付費の推移
 近年は支出(被保険者1人当たり保険給付費)が収入(1人当たり標準報酬月額)の伸びを上回り、その差が広がっています。平成15年度を1とした場合の平成23年度の支出は1.17、収入は0.96(いずれも概算要求時点における見込み)とその差は21%まで拡大しており、支出の削減もしくは収入の増加の対策が急務であることが分かります。


被保険者1人当たり標準報酬月額の実績値と推計
 被保険者1人当たりの標準報酬月額は平成19年以降282,000円を下回ることはありませんでしたが、平成22年7月時点(速報)では274,644円となりました。推移を見ると、平成21年4月から平成22年6月にかけて急速に下落しており、保険料の基礎となる標準報酬月額の下落がそのまま保険料収入の減少に繋がっています。


準備金残高と単年度収支差
 平成14年に6,169億円もの巨額の単年度赤字と649億円の準備金不足に陥った収支決算は、平成15年の患者負担の3割化、総報酬制の導入などによって持ち直しましたが、平成19年度から再び単年度赤字に陥り、平成18年度には4,983億円あった準備金も平成21年度末には枯渇し、再び3,179億円もの巨額の準備金不足に陥っています。


 協会けんぽの保険料率が8.2%から9.34%に引き上げられたのは記憶に新しいところですが、単年度収支や準備金の不足をみると、今後もさらに保険料が上昇していくことが予想されます。委員会でも国庫補助率の20%への引上げ、70歳以上75歳未満の患者負担引上げ(1→2割)凍結の終了、出産育児一時金増額(38→42万円)の終了などを含めて検討がされていますが、給付の削減、保険料の増加などいずれにしても被保険者および企業の負担増は避けられない厳しい状況となっています。



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参考リンク
全国健康保険協会「第21回全国健康保険協会運営委員会資料」
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/news/detail.1.52281.html


(中島敏雄)


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